抄録
液相中でのイネ葉片の光合成, 呼吸速度を酸素電極により測定する方法を, 特に葉片の大きさと光合成, 呼吸速度との関係に注目して試みた. 測定方法の概略は次の通りである. 0.5mM の CaSO4 を含む 50mM HEPES 緩衝液中に葉片を浸け, 30分間の前照射を行なった後, 終濃度 20mM の NaHCO3 および30μg/ml の Carbonic anhydrase を緩衝液に加えて光合成を開始させた. 光合成速度は緩衝液中の溶存酸素の増加速度から計算した. 呼吸速度は暗黒下における緩衝液中の溶存酸素の減少速度から計算した. 使用した酸素電極は英国の Rank Brothers 社製のものである. 結果の概要は次の通りであった. 1. 緩衝液の PH が7.2の場合に, みかけの光合成の最大活性が得られた. 2. 光合成の炭素源として NaHCO3 と KHCO3 を用いたが, 光合成速度に関してこの両者に差はなく, 20mMの濃度でみかけの光合成は飽和した. 3. みかけの光合成は 50klx の光照度で飽和した. 4. みかけの光合成は葉片を 1mm 平方に切った場合に最大の活性が得られた. これより小さく切った場合にみられる光合成速度の低下は, 切口近辺の組織の破壊によることがわかった. 5. 暗呼吸速度は光合成速度ほどには葉片の大きさに左右されず, 0.8mm 平方以上の場合にほぼ一定の値をとった. 6. 本法によって測定した光合成速度は, 赤外線ガス分析器により測定した値より低かったが, 切口近辺の組織の破壊に起因する光合成速度の低下を補正するとほぼ等しくなることがわかった. 本法によれば, 葉片による CO2 交換が主に葉片の切断面を通して行なわれると考えられ, 光合成速度に及ぼす気孔抵抗の影響を回避することができると思われる. また, 光合成, 呼吸に及ぼす促進剤や阻害剤の効果を直接的に調べることができるなど, 本法は種々の利点を持っており, 今後種々の目的に活用できる可能性を持っていると思われる.