イネは, 種々のガス代謝的研究により C
3 植物であるとされている. しかし, その起源が熱帯地域であること, また近年, インド稲で光合成初期産物がアスパラギン酸であるという報告がなされていることなどから, イネはその CO
2 固定反応に C
4 植物的傾向を有していることが考えられる. 本実験では, CO
2 固定酵素としての PEP カルボキシラーゼ, RuDP カルボキシラーゼの活性, および CO
2 固定反応の初期産物を主に日本稲について, C
3 植物のオオムギ, コムギ, また C
4 植物のトウモロコシ, ヒエと対比しながら調べた. 結果の概要は次の通りである. 1. PEPカルボキシラーゼの活性はトウモロコシ, ヒエの C
4 植物で高く, オオムギ, コムギの C
3 植物で低かった. また, RuDP カルボキシラーゼの活性は C
3 植物で高く, C
4 植物で低かった. こうした2つの CO
2 固定酵素の活性比較から, イネはインド稲, 日本稲ともに C
3 植物であると考えられた. 2. 光合成による
14CO
2 固定反応の初期産物をトウモロコシ, イネ(日本稲), オオムギについてみると, トウモロコシでは
14CO
2 はまずリンゴ酸, アスパラギン酸のような C
4 化合物にとりこまれたが, イネではオオムギと同様,
14CO
2 はまず 3-フォスフォグリセリン酸および糖リン酸にとりこまれていた. また, イネ, オオムギでは光呼吸の中間代謝物質と考えられているグリシン, セリンへの
14C のとりこみが比較的多く認められたが, トウモロコシでは非常に少なかった. 以上のことから, 日本稲は生化学的な面からも典型的な C
3 植物であることが明らかになり, また, インド稲もほぼ確実に C
3 植物であると考えられた.
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