抄録
小型で可搬型のスペクトロフォトメータをマイクロコンピュータに接続し, 原動機付油圧クレーン車と組み合わせて野外用移動分光計測システムを製作した. フォトメータは回折格子方式で400~1,200nmを連続走査し, 光電子増倍管とシリコン光電池で光電変換する. 50mm対物レンズで集光し, ファィンダで対象と視野範囲(1.1°×9.4°)を確認できる. 測定出力は対数増幅器を経て, 12ビットA/D変換器でデジタル化され, デスクトップ型マイクロコンピュータに読み込まれる. 測定部およびコンピュータの写真とブロック図を各々第1図と第2図に示す. また, 光学系と電気系の主な諸元を第1表に掲げた. このフォトメータを圃場上空数メートルの位置で下向きに保持するための補助装置(Platform)として, 第3図に示したような小型クレーン車を製作した. ブームの最大長5.8メートルで油圧で昇降・起伏する. ブームの先端には起伏角に拘らずフォトメータが真下を向くようなセンサ基台が取り付けられている. また, 高所からのフォトメータの較正用に, 1メートル四方の大型標準白板(第4図)を用意した. このシステムにより測定した水稲10品種の個体群からの反射スペクトルを第5図に示した. 野外でのテストの結果400nm~1,000nmの波長範囲では安定した測定ができるが, 1,000nm以上では光検知器の感度が落ちるためデータの信頼性がやや低下することが明らかになった. しかし, このシステムを使用することにより, 作物個体群の反射スペクトルを迅速に(走査時間約50秒), しかも圃場内に踏み込むことなく取得できる見通しを得た.