抄録
異なる窒素追肥条件下で生育したイネの幼穂始原体分化期にジベレリン (GA3, 以下GAと略記) を施与すると, 小穂の器官形成にどのような異常の変化が生じるかを1986年の2回実験した。水稲品種幸風を1/5000aポットで土耕栽培し, 窒素無追肥区 (0 N), 標準追肥区 (硫安0.5 g施与) (1 N), 窒素3倍追肥区 (同1.5 g施与) (3 N) の単用区と, それぞれにGAを併用する区とを設けた。追肥は最高分けつ期に行い, GAは幼穂分化期に土壌中濃度が50 ppmになるように500 ppm溶液を75 mlずつ施与した。窒素追肥区およびGA処理区とも草丈, 二次枝梗数, 小穂数が増加したが併用区では特に著しかった。GA処理による異常の割合は追肥区の方が無追肥区に比べて高くなり, 追肥窒素量が増加する程その割合は高くなった。雄ずいが3~5本に減少し, 雌ずいの柱頭が3本発生したものが多くみられ, 3N+GA区ではこれらの発生率が30%近くに達した。また3N区でも雌ずいの第3柱頭の発生がみられた。異常器官の穂上での分布については, 付加的穎の発生と雄ずいの異常は類似した傾向を示したが雌ずいの異常はこれらと異なっていた。GAは以上のように窒素多用条件下でいっそう顕著に雄ずい数の減少と雌ずいの増加を誘起し, GA単独処理における雄ずいの増加傾向とは対称的な結果を示した。水稲に対する窒素多用は従来のオーキシン処理による場合と同様雌性器官の増殖化を促進したが, GAはこれを一層助長することが見出された。