日本作物学会紀事
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58 巻, 3 号
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  • 野瀬 昭博, 仲間 操, 宮里 清松, 村山 盛一
    1989 年 58 巻 3 号 p. 279-289
    発行日: 1989/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    サトウキビ (Saccharum officinarum L.) 品種NCo 310を2種類の栽植密度 (標準: 135×40 cm, 密植: 135×20 cm)で泥灰岩土壌畑と琉球石灰岩上壌畑に夏植え栽培した。栽植密度は乾物生産の推移の仕方に明らかに影響を及ぼした。密植区においては, 植付け1年目の夏に最大の現存乾物量を示し, その後成熟期にかけて現存乾物量は減少した。標準区においては, 成熟期に最大の現存乾物量を示した。最大個体群生長速度 (CGR) は密植区の夏に泥灰岩土壌畑て45.24 g/m2/日, 琉球石灰土壌畑で39.12 g/m2/日, その時の平均葉面積指数 (LAI) は各々7.54, 4.87と高く, 太陽エネルギー利用効率も4.43%, 3.92%と高かった。また, 植付けで1年間の平均CGRも密植区の泥灰岩土壌畑で18.92 g/m2/日, 琉球石灰土壌畑で17.16 g/m2/日と高かった。以上のような密植区における高いCGRは高いLAIによってもたらされ, 高いLAIは単位土地面積当り茎数の増加に起因していることが明らかになった。また, 乾物生産の面からすると, 夏植えサトウキビの栽培期間は現行の3分の2の1年間に短縮できる可能性がある。
  • 沢畑 秀
    1989 年 58 巻 3 号 p. 290-296
    発行日: 1989/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    養分供給量の差異がサツマイモの塊根肥大に及ぼす影響について, 塊根部と吸収根部とを区別した実験装置を用いて, 野外の群落条件下で検討した。吸収根部は礫耕として肥料3要素の濃度処理を与え, 塊根部は山砂を用いた土耕として各区とも同一条件とした。養分供給処理は塊根形成後の塊根肥大期に行い, 処理に対する生育反応から塊根肥大特性を明らかにしようとした。1. 実験装置のサツマイモは健全に生育し, 窒素中濃度処理6区の2か年の平均収量がm3当り3.59kgと多収であった。2. 窒素供給量の差異が塊根乾物重に及ぼす影響は大きく, 低濃度及び高濃度処理条件下で減収した。カリの影響は, 窒素高濃度条件下では大きかったが, 中・低濃度条件下では小さかった。3. 葉身窒素含有率と塊根乾物重との間には密接な関係が認められ, 塊根乾物重は葉身窒素含有率が3.0~3.7%の範囲のときに最も多かった。また, この値は養分処理, 生育時期による差が小さかった。4. 塊根乾物重と塊根のK2O/N比との関係を検討し, 塊根乾物重は比が低い段階では比が高くなるにつれて増大するが, 比が5以上になると減少する傾向が認められた。5. 以上のような結果から, 塊根肥大に対して窒素供給量の多少は第一義的に重要であり, カリ多用の増収効果は窒素供給量の多少によって異なり, 窒素供給量の多いときに高いことが指摘された。
  • 榎本 末男, 前田 英三
    1989 年 58 巻 3 号 p. 297-304
    発行日: 1989/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    プロトプラストの単離に使用するレタス子葉組織について, その育成光条件と葉組織の細胞学的特徴および不定芽形成との関係につき研究した。その結果, (1) 蛍光灯と陽光ランプでは芽生えの生長が異なった。蛍光灯150 lx条件の子葉は未展開であったが, 5,000 lx以上の区と陽光ランプ区ではよく展開し正常に生長した。(2) 蛍光灯と陽光ランプで波長別エネルギー分布が異なっていた。(3) 子葉組織の細胞学的観察では, 150 lxの蛍光灯下で育成した子葉細胞で細胞質が多く, 5,000 lx以下で細胞質が少なかった。陽光ランプ下で育成した子葉は, 何れの区でも細胞質が多かった。(4) 子葉の育成条件 (照度) と芽生えのエイジは, 不定芽形成頻度に大きく影響した。以上の結果から, プロトプラストを単離する材料組織の育成方法は, プロトプラストを単離培養の効率化に関係すると考えられた。
  • 鳥越 洋一
    1989 年 58 巻 3 号 p. 305-310
    発行日: 1989/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    地形・土壌, 農業集落カードのメッシュデータを構築して, 地帯区分の画定とそれに基づく耕地分類手法を茨城県新治郡八郷町 (約138 km2) を例として開発した。メッシュサイズは一辺約500 mで, 総数は635である。地帯区分の画定では水系毎に水田と畑の土壌統が同じメッシュ群を抽出し, それを核にして水田または畑の土壌統の同じ周辺メッシュ群を抽出し, 空間的にまとまりを持つメッシュ群を一つの地帯とみなし, 実態調査の結果を考慮して, 27地帯を画定した。自然立地的耕地分類ではメッシュ地図を作成し, 地理的変異の大きい要因を抽出した。各要因に耕地分類上の意味づけを行い, 6階級に区分した。次に各地帯を自然立地的特徴に基づいて類型化するために, 主成分分析を行った。第一主成分は標高, 斜面傾斜度および起伏量と, 第二主成分は斜面方位数と優占方位と, 第三主成分は水田と畑の土壌統の種類数とそれぞれ高い相関を示した。したがって, 第一主成分は起伏の特徴, 第二主成分は谷の開析方向による日当りの違い, 第三主成分は分布土壌の違いをそれぞれ表現するものと考えられた。次に得られた3つの主成分のスコアの類似性を, クラスター分析の最長距離法と現地の実態に即して区分すると, 5群に分類された。この結果は精査で得られた地域的自然立地と耕地利用の特徴を良好に説明するものであった。
  • 大塚 隆, 坂 斉
    1989 年 58 巻 3 号 p. 311-315
    発行日: 1989/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    前報で明らかにした円形20粒播きで栽培し, 分げつを除去し主稈のみとした生殖生長期イネ (品種:日本晴) におけるイソプロチオラン (ジイソプロピル-1, 3-ジチオラン-2-イリデンマロネート, 以下IPTと略す) の生育制御, とくに登熟向上作用について14CO2同化後の14Cの追跡実験の経時的変化を調べることにより検討した。まず, 出穂11日前にポット植えのイネにIPT粒剤 (フジワン (R), 有効成分12%) を製剤量にして400 g/aの割合で湛水土壌に処理し, 出穂日に14CO2を同化させた後25℃の人工気象室内で生育させた。経時的にイネ体を採取し, イネ体が示す14Cのオートラジオグラムおよび14C量の経時的変化を調査した。その結果, IPTを処理したイネでは同化産物の転流が促進され, 特に穂の下位枝梗に位置する籾で, 14Cの取り込みが高かった。以上のことから, IPTは, 本実験条件下では粒重増加効果を示すことが明らかで, この効果は, IPT処理による同化産物の転流促進に起因するものと推察された。
  • 鳥越 洋一
    1989 年 58 巻 3 号 p. 316-323
    発行日: 1989/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    普通畑の適性度分級基準を用いて, 広域に分布する普通畑の分級手法と基準の有効性を検討した。対象地域は茨城県八郷町 (約138 km2) とし, メッシュサイズは一辺約500 mで, 総数635である。茨城県地力保全調査の各土壌統代表断面第1層理化学性に関する16項目と因子強度に関する48項目について分布畑土壌統のメッシュデータを構築した。分級手順は取り扱う因子の強度区分を行う一時評価, 部分適性を検討する二次・三次評価, そして総合評価を行う四次評価と段階的に適性度を判定する。一次評価には土壌, 地形, 気候, 生産力の指標等の自然因子が扱われる。それに基づいて, 耕伝・地力発現・侵食防止の難易性と根圏・同化生産の制限性の二次評価を行う。三次評価では二次評価結果に得点を与えて耕作性と生育性を評価する。四次評価は三次評価結果に同様に得点を与えて総合結果を求める。本システムはNEC PC-9801VM, 高解像度カラーディスプレーとカラープリンタからなる。プログラムを起動すると, 項目画面が表示され, 任意のものを選択すると, 評価結果は5または6段階の適性度区分によるメッシュ地図が出力される。分級結果と実態調査結果とを比較検討したところ, 総合評価結果の適性度が高い地帯ほど作付自由度は高い傾向が認められた。
  • 川合 豊彦, 武岡 洋治
    1989 年 58 巻 3 号 p. 324-330
    発行日: 1989/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    異なる窒素追肥条件下で生育したイネの幼穂始原体分化期にジベレリン (GA3, 以下GAと略記) を施与すると, 小穂の器官形成にどのような異常の変化が生じるかを1986年の2回実験した。水稲品種幸風を1/5000aポットで土耕栽培し, 窒素無追肥区 (0 N), 標準追肥区 (硫安0.5 g施与) (1 N), 窒素3倍追肥区 (同1.5 g施与) (3 N) の単用区と, それぞれにGAを併用する区とを設けた。追肥は最高分けつ期に行い, GAは幼穂分化期に土壌中濃度が50 ppmになるように500 ppm溶液を75 mlずつ施与した。窒素追肥区およびGA処理区とも草丈, 二次枝梗数, 小穂数が増加したが併用区では特に著しかった。GA処理による異常の割合は追肥区の方が無追肥区に比べて高くなり, 追肥窒素量が増加する程その割合は高くなった。雄ずいが3~5本に減少し, 雌ずいの柱頭が3本発生したものが多くみられ, 3N+GA区ではこれらの発生率が30%近くに達した。また3N区でも雌ずいの第3柱頭の発生がみられた。異常器官の穂上での分布については, 付加的穎の発生と雄ずいの異常は類似した傾向を示したが雌ずいの異常はこれらと異なっていた。GAは以上のように窒素多用条件下でいっそう顕著に雄ずい数の減少と雌ずいの増加を誘起し, GA単独処理における雄ずいの増加傾向とは対称的な結果を示した。水稲に対する窒素多用は従来のオーキシン処理による場合と同様雌性器官の増殖化を促進したが, GAはこれを一層助長することが見出された。
  • 中野 寛, 渡辺 巌, 桑原 真人, 田渕 公清
    1989 年 58 巻 3 号 p. 331-336
    発行日: 1989/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    土壌条件が大豆の窒素追肥による増収効果に及ぼす影響について検討した。とくに, 窒素追肥が作物体の窒素同化に及ぼす効果を解析するため, 根粒非着生大豆系統を対照に用い, 供試栽培品種の窒素同定量, 追肥窒素の吸収量や追肥窒素による窒素固定の減少量を推定した。堆肥投与によって土壌の肥沃度を高めた時, 窒素追肥による増収量や増収率は低下した。逆に, 土壌からの窒素供給量が減少するにしたがい, 窒素追肥による増収効果は逓増した。土壌の種類が異なる場合には, 無追肥条件下での作物体の土壌窒素吸収量, 窒素固定量や全窒素同化量の大小と, 追肥の増収効果には直接的な関係は認められなかった。しかし, 開花期から最大繁茂期までの同化窒素量を高める効果が大きい土壌条件の下では, 追肥による増収効果も大きかった。追肥効果が高かった原因は, 灰色低地土のシルト質埴壌土では, 無追肥時の窒素固定機能が低く, 追肥による窒素固定の低下が少なかったためであった。主た, 灰色低地土の壌土の中には, 追肥窒素が迅速に吸収され, 追肥窒素の利用率が極めて高かったものもあった。一方, 黒ボク土の壌土は, 窒素追肥による窒素固定の減少が著しく, 同等の土性の灰色低地土の壌土に比べでも追肥効果が上がらなかった。その著しい窒素固定阻害は, 黒ボク土の可給態燐酸の濃度が低いためであると推察された。
  • 松井 重雄, 岡 啓, 西入 恵二
    1989 年 58 巻 3 号 p. 337-341
    発行日: 1989/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    テンサイ作付けによる後作ダイズの生育抑制を確かめ, その要因を解析するための実験を行った。第1年は2作物 (テンサイ, バレイショ) の作付け, テンサイ茎葉施用の有無および堆肥施用の有無の3要因, 2水準処理 (2反復) を行い, 第2年にダイズ, 第3年にトウモロコシを均一に栽培した。ダイズの生育は処理の影響がみられ, 茎長や乾物重が前作テンサイ区で劣り, 前作バレイショ区, 茎葉施用区, 堆肥施用区でまさった。総重, 子実重, 莢数も同じ傾向にあったが, 100粒重, 1莢粒数には影響がなかった。総重に対する子実重の割合は前作テンサイ区で高かった。前作処理と他の2処理との間には生育・収量に関して統計的交互作用は全く認められなかった。第3年のトウモロコシの生育・収量には第1年の処理効果は認められなかった。テンサイ作付けによる後作ダイズの生育抑制の要因としてテンサイの葉または根が分泌するアレロパシー物質の可能性が考えられた。
  • 黒田 栄喜, 玖村 敦彦, 村田 吉男
    1989 年 58 巻 3 号 p. 342-346
    発行日: 1989/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    圃場条件下で水稲個葉の光合成の実態を調べ, その支配要因を検討した。その結果, 葉面光強度が主導的な支配力をもつこと, しかし, それ以外にもかなり強い影響力をもつ要因が存在することが示唆された。個葉の光飽和点は場合によって異なったが, ほとんどの場合0.65 cal cm-2min-1以下に位置していた。
  • 黒田 栄喜, 玖村 敦彦
    1989 年 58 巻 3 号 p. 347-356
    発行日: 1989/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    圃場条件下で, 同じ日の, ほぼ同じ時刻に, 飽和光下で測定された同一葉位の一群の個葉の光合成速度 (CER) の間に, 最大幅9~12 mg CO2dm-2h-1程度の変異がみられた。著者らはこの変異をCERの個葉間変異と名付けその特徴と発現の生理的基礎を検討し次のことが明かとなった。(1) CERの個葉間変異はつねに気孔伝導度 (gs) と密接に関連していた。(2) 同一葉位の一群の個葉のうち, ある日, ある時刻において高いgs値を示すものは, 他の日, 他の時刻においても高いgs値を示した。すなわち, gsの大小についての個葉間の順位は時間的に安定していた。(3) 多数の茎について上位3葉のgsを測定したところ, 第I葉のgsが大きい茎では第II, III葉のgsも大きいという傾向がみられた。すなわち, gsの個葉間変異は個々の茎を単位として起こることがわかった。(4) 日中のgsが大きい個葉では日没後における葉身基部切断面からの出液速度が大きいという関係が認められた。(5) 多数の茎について上位3葉の基部切断面からの出液速度を測定したところ, 第I葉の出液速度が大きい茎では, 第II, III葉のそれも大きいという傾向があった。(6) 以上のことから, 個々の茎が所有する根の量や活力に差異があり, そのため葉への能動的な水供給力について茎を単位とした変異が生じ, これがgs, ひいてはCERの個葉間変異をもたらすことが示唆された。
  • 鄭 紹輝, 井之上 準
    1989 年 58 巻 3 号 p. 357-363
    発行日: 1989/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    25℃暗黒条件下において, 非接着型ストレーン・ゲージ荷重変換器を用いて, 伸長程度の異なるダイズ (品種:アキセンゴク, フクユタカ) 芽ばえの抽出力を測定するとともに, 抽出力の測定中 (芽ばえの頂端部に荷重がかかった場合) に起こる下胚軸の肥大および芽ばえからのエチレン発生量を測定した。その結果, 芽ばえの伸長程度によってやや異なったが, 全体的にみれば抽出力は測定開始後4~5時間までは直線的に急増し, その後の増大はゆるやかで, 測定開始後48~60時間で最大に達した。なお, 最大抽出力は芽ばえの長さが短いほど大きかった。芽ばえの頂端部に荷重をかけられた個体では, 無処理の個体に比較して芽ばえが短くなったが, 同時に下胚軸が太くなった。このように頂端部に荷重をかけられ, 下胚軸が大くなりつつある芽ばえからのエチレン発生量は, 無処理の芽ばえに比較して4~6倍に増大した。ところが, エチレン・アセトアルデヒド除去剤を用いて, 発生したエチレンを除去すると, 下胚軸の肥大程度がやや減小した。これらの結果から, ダイズの芽ばえは, その出芽過程において土塊やクラストに遭遇するとエチレンを発生し, そのエチレンの作用で下胚軸が肥大し, 抽出力が増大して出芽するものと推察された。
  • 梅崎 輝尚, 松本 重男
    1989 年 58 巻 3 号 p. 364-367
    発行日: 1989/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    本研究では, ダイズの主茎節間における伸長性を明らかにするため, 九州地方の秋ダイズ4品種を供試して, 各節間の伸長経過について経時的に調査を行った。1) ダイズ主茎の各節間は主茎と同様におのおのS字カーブを描いて伸長した。2) 主茎各節間の最終節間長は第1節間 (子葉節-初生葉節) が長く, 第3あるいは第4節間が最短で上位節間になるに従って長くなり, 頂部で再び短くなるパターンが認められた。3) 主茎節間の伸長と出葉には同伸性が認められ, 一般に第N節間の伸長最盛期は第N+2葉期, 伸長停止期は第N+4葉期で示すことができた。以上のようにダイズの主茎節間の伸長には規則性が存在することが明らかとなった。今後, 人為的に節間長を制御しようと試みる場合, この規則性を考慮・活用することにより, より効果的な制御が可能となろう。
  • 平井 源一, 中山 登, 北宅 善昭, 稲野 藤一郎, 中條 博良, 湊 公美, 田中 修
    1989 年 58 巻 3 号 p. 368-373
    発行日: 1989/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    大気湿度が水稲個体群の光合成速度に及ぼす影響を明らかにするために, 模擬個体群 (120×60 cm, 栽植密度約40本/dm2, 葉面積指数6~7, 草高約30 cm, 葉齢約6) を用い, 22, 28, 34℃の気温で, 大気の相対湿度の変更に伴う光合成速度の差異を人工光下で調べた。さらに, 大気の相対湿度が模擬個体群上層部の葉身の気孔開度, 葉温に及ぼす影響を調べ, これらと模擬個体群の光合成速度との関係を検討した。その結果は次の通りである。1. 水稲模擬個体群の光合成速度は, 相対湿度の上昇, 下降に伴い, 速やかに増大, 減少した。相対湿度60%における光合成速度は気温の上昇に伴い増大したが, 90%においては, 気温28℃までは増大し, 34℃になると減少した。2. 相対湿度の上昇, 下降に伴い, 模擬個体群の上層部における葉身の気孔開度は速やかに増大, 減少し, その傾向は気温が高いと著しかった。一方, 葉身は概して気温より低く, 相対湿度の上昇, 下降に伴い速やかに上昇, 下降した。葉温と気温の差は, 両湿度条件ともに気温が高い程大きくなり, その傾向は相対湿度60%で著しかった。以上のように, 大気の相対湿度は模擬個体群の光合成, 気孔開度および葉温に速やかに影響することが明らかになった。また, 光合成速度と気孔開度, 葉温との関係を検討した結果, 相対湿度の変更による光合成速度の変化には, 葉温が適温域内にある場合は主として気孔開度が関与し, 適温域外にある場合は, さらに葉温が関与すると考えられた。
  • 黒田 栄喜, 大川 泰一郎, 石原 邦
    1989 年 58 巻 3 号 p. 374-382
    発行日: 1989/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    台湾で育成された長稈穂重型の多収性品種台農67号とわが国の代表的品種で短稈穂数型の日本晴を用いて, 両品種の収量および乾物生産過程とその違いをもたらす生理生態的要因について検討した。台農67号は日本晴に比べて, 1穂穎花数が著しく多いので収量は多く, 乾物生産量も大きかった。台農67号の乾物生産量が大きい要因を生長解析により検討した結果, 草丈が高くなり始める出穂期以降, 平均葉面積指数 (LAI) および純同化率 (NAR) がともに大きいという特徴をもつことがわかった。この違いが生じる要因を両品種の個体群構造から検討したところ, 出穂期以降, 台農67号は日本晴に比べて, 1) LAI が大きいにもかかわらず草高が高いので葉面積密度 (LAD) が小さいこと, 2) 吸光係数はやや小さく, 登熟期には長稈の割に上位葉が直立し受光態勢が良いこと, 3) 葉面積指数が大きいにもかかわらず個体群内の蒸発量が大きいこと, 4) 葉面積指数が大きく, 各葉位の個葉光合成速度がほぼ同じか高いにもかかわらず, 個体群内のCO2濃度が日中高く推移することがわかった。これらのことから, 台農67号は, 受光態勢がよいことに加えて, LADが小さいことと関係して個体群の光合成, 物質生産に大きな影響を及ぼすCO2拡散効率が大きいという特徴を備えていることがわかった。以上の結果を基礎に, 多収性品種育成に当って, 物質生産からみて長稈穂重型の有利な性質を利用することを考えると同時に, 耐倒伏性の問題を稈の物理的, 生理的, 形態学的性質の面から研究する必要のあることを指摘した。
  • 平沢 正, 飯田 幸彦, 石原 邦
    1989 年 58 巻 3 号 p. 383-389
    発行日: 1989/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    前報で明らかにした空気湿度, 葉の水ポテンシャル (Ψl) の低下に伴う水稲葉身の光合成速度の減少が, 気孔を通じての葉内へのCO2の供給と葉肉細胞の光合成系の活性のどちらの低下によって主として引き起こされるかを葉内のCO2濃度 (Ci) の変化を通じて検討した。(1) 飽差が増加し光合成速度が減少すると, Ciは減少し, 空気湿度の低下は主として葉内へのCO2の供給速度の減少を通じて光合成速度に影響することがわかった。(2) Ψlが低下して光合成速度が減少する時には, Ψlが-5~-6 barに低下するまでCiは減少したのに対して, Ψlが-5~-6 bar以下に低下するとCiは増加し, Ψlの低下に伴う光合成速度の減少の主たる要因はΨlが-5~-6 bar以上では葉内へのCO2の供給速度の減少であり, Ψlが-5~-6 bar以下では葉肉細胞の光合成系の活性の低下にあることがわかった。また, 葉位, age, チッ素濃度が異なっても, 光合成速度の減少の主たる要因が替わるΨlには相違が認められなかった。(3) 土耕栽培しΨlを徐々に低下させた水稲は, 水耕栽培しΨlを急激に低下させた水稲に比べてΨlの低下に対する光合成速度, 拡散伝導度の減少割合が小さく, 光合成速度の減少の主たる要因が葉肉細胞の光合成系の活性に替わるΨlも低く, 浸透調整が関係していることが推察された。
  • 岡 三徳, サラカーン スパチャイ, リムシイラ チャルンシット
    1989 年 58 巻 3 号 p. 390-394
    発行日: 1989/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    タイ国のキャッサバ栽培では, 1975年にタイ在来品種から選抜された品種, Rayong 1が現在広く普及している。1984年にCIATの交配種子から育成された改良品種, Rayong 3は分枝型の草型を示し, 塊根の高い澱粉含有率とその多収性が注目されている。本研究では, Rayong 3の乾物および収量生産特性に着目して普及品種Rayong 1と比較検討した。全乾物重および塊根乾物重は, 生育期を通じてRayong 3でRayong 1に比較して高く推移した。また, 両品種の最終全乾物重の差は, 雨期における乾物生産の違いによるものであった。得られた結果を総合すると, Rayong 1と比較してRayong 3の優れた生産特性は, i) 雨期の高い葉面積展開力と結びついた高い乾物生産力, ii) 塊根部への高い乾物分配率, iii) 塊根の高い乾物率および澱粉含有率の3点に要約された。
  • ナカムラ チエミ, 前田 英三
    1989 年 58 巻 3 号 p. 395-403
    発行日: 1989/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    日本型イネカルスからの植物体分化初期過程を, 走査型電子顕微鏡を用いて研究した。茎葉形成培地上で, カルス塊表面が経時的に変化したのち, 不定芽・不定根を生じた。はじめ, カルス塊表面を薄層がおおっていたが, ときに, その層が強く裂かれ, 薄層の下から露出した表層細胞に繊維状構造がつらなる。しかし, カルスの生育が進むと, 表皮状構造がカルス塊をおおい, より安定化した表面構造を示すようになる。更に塊状構造は肥大・生長し, 薄片状または筒状構造を呈するようになり, 最終的に幼芽を再生する。また幼芽から離れて, 根毛をもった不定根が発生する。従って本研究結果は, カルス表面の安定化が茎葉形成初期過程の一つの特徴であることを示した。
  • 岩間 和人, 西部 幸男
    1989 年 58 巻 3 号 p. 404-408
    発行日: 1989/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    バレイショの近縁野生種 (野生種) が後代の育種材料の収量形質に及ぼす影響を明らかにするために, 異なる野生種に由来する36系統 (品種) を母本とし, 父本を共通とする交配から得た, 第1次栄養繁殖世代の集団間における塊茎収量 (生体重), 澱粉価及び澱粉収量を比較した。CP群 (S. chacoenseまたはS. phurejaに由来する系統) を親とした集団は, T群 (野生種に由来しない系統) およびDW群 (S. chacoenseまたはS. phureja以外の野生種に由来する系統) を親とした集団に比べ, 澱粉価及び澱粉収量の集団平均値が高く, また集団内の雑種個体間の変異が大きい傾向を示した。各集団の澱粉収量は塊茎収量, 澱粉価の両者と高い正の相関関係を示したが, 澱粉収量の高い集団間では, 澱粉収量の差異は主として澱粉価の差異に起因していた。各集団の雑種個体間では, 澱粉収量は塊茎収量ときわめて密接な相関関係を示したが, 集団間における澱粉価の変異は塊茎収量に対する澱粉収量の回帰直線の差異として現われた。以上のことから,CP群の系統を育種交配の親に用いることにより, 塊茎の澱粉価及び澱粉収量の高い品種を効率的に育成できることものと考えた。
  • 中野 寛, 前田 英三
    1989 年 58 巻 3 号 p. 409-418
    発行日: 1989/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    葯培養条件下の花粉細胞や葯壁組織, および花粉細胞起源カルスの組織構造・細胞内微細構造を調査し, イネ花粉細胞の脱分化に伴う若干の微細構造的特徴を認めた。その一つは, 培養条件下で生存している花粉細胞や葯壁組織に認められたマイクロボディである。このマイクロボディは, イネ葯培養での花粉細胞の脱分化過程に伴う脂質代謝に機能している可能性があると考えられた。また, 花粉由来の脱分化細胞が花粉外殻を破り外に現われる際, 粘液性物質が外殻の表面に分泌された。この粘液性物質の生理的機能は不明であるが, 多細胞花粉の中に認められたマルチベシキュラーボディが, この分泌に機能しているものと推察された。多細胞花粉は増殖を続け球状カルス塊になり, さらにそれはイネカルスからの不定根分化と不定芽分化の両初期過程に現われる2種の組織へと分化し, そして最後には不定根原基も形成された。花粉起源球状カルス塊の形成時に現われたデンプン粒や脂質顆粒は, 不定根原基の分化に伴って細胞内から消失することが示された。これらの結果は, 葯培養条件下でのイネの花粉細胞の脱分化と植物体再分化の過程において, 炭水化物代謝や脂質代謝の変動が関与していることを示唆していると考えられた。
  • プレマチャンドラ ニャーナシリS., 実岡 寛文, 尾形 昭逸
    1989 年 58 巻 3 号 p. 419-423
    発行日: 1989/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    トウモロコシ葉の細胞膜安定性をポリエチレングリコール (PEG) 試験法により評価した。さらにトウモロコシ3品種 (K8388, P3424, P3358) の展開完了最上位葉の先端部, 中央部, 基部の3部位について浸透ポテンシャル, 水ポテンシャル, 気孔抵抗, クチクラ抵抗および各部位の糖, K, Ca, Mg含量とPEG 処理によって生じた損傷程度 (被害度) との関係から細胞膜安定性の支配要因を解析した。水ポテンシャル, 浸透ポテンシャル, 葉組織と細胞液中のMg含量と被害度との間には高い相関が認められた。特に葉組織の浸透ポテンシャルが, PEG処理によるストレス, すなわち被害度に直接影響を及ぼし, 浸透ポテンシャルの低い品種ほど被害度の小さいことが推察された。浸透ポテンシャルの低下は, 他の体内成分に比べアルコール可溶糖により高く依存していることが推察されたが, 葉組織, 細胞液中の糖含量と被害度との間には相関は認められなかった。
  • オトー アーネスト, 石井 龍一, 玖村 敦彦
    1989 年 58 巻 3 号 p. 424-429
    発行日: 1989/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    本研究は, イネのみかけの光合成速度, 蒸散速度, 水利用効率に対して, 窒素施用量と土壌水分欠乏処理との間に相互作用が見られるかどうかを明らかにしようとしたものである。すなわち光合成速度, 蒸散速度, 水利用効率に対する土壌水分欠乏の影響が, 窒素の施用量によって変化するかどうかを明らかにしようとしたものである。実験には 1/2,000a ワグナーポットを使用し, 3.2 g, 0.4 gの2段階の窒素条件下で植物を生育させた。7葉期に達した植物に土壌水分欠乏処理を施し, それらのガス交換速度を測定した。その結果, 有意な相互作用が認められ, 多窒素施用区の植物体は, 光合成, 蒸散速度のいずれにおいても少窒素施用区の植物体より土壌水分欠乏の影響を大きくうけていた。特にその影響は蒸散速度において大きかった。このことから, 多窒素施用区の植物体では, その気孔が水ストレスに対して, より敏感に反応することが考えられた。同時に, 多窒素施用区の植物体では葉肉細胞内の光合成系の活性が高く保たれており, 少窒素施用区の植物体に比較して水ストレス条件下でも大きい光合成速度を有していた。このように多窒素施用区の植物体は, 水ストレス条件下でも光合成系の活性を高く維持させるとともに, 水ストレス条件に対して気孔を敏感に反応させることによって水利用効率を高く保っていることが明らかとなった。
  • 井上 吉雄, JACKSON Ray D., PINTER Paul J. Jr., REGINATO Robert J.
    1989 年 58 巻 3 号 p. 430-437
    発行日: 1989/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    3種類の灌漑条件におけるコムギ群落について, 土壌乾燥と大気の蒸発要求度 (飽差) に対する蒸散速度および気孔抵抗の反応を全生育期間にわたって調べた。中性子土壌水分計によって測定した体積含水率から利用可能土壌水分 (ESW, %) を算出し, これによって土壌の水分状態を経時的に把握した。蒸散速度とESWとの間には, ESWの低い場合に比較的明瞭な正の相関関係があったが, 高い場合にはまったく相関がなかった。逆に, 蒸散速度と大気飽差の間には, ESWが低い乾燥条件では一定の関係がないのに対して, ESWが高い条件では比較的強い正の相関関係が認められた。したがって, 見かけ上, ESWが約40%以下のときには土壌水分が, それ以上のときには飽差が蒸散速度をそれぞれ律速していた。気孔抵抗はESWが約40%以上ではほとんどESWの影響を受けずかつ非常に小さかったが, それ以下になるとESWの低下にともなって反比例的に増加し, 約5%では極度に大きくなった。両者の関係は極めて密接で (r=0.82**), この関係を土壌水分状態のモニタリングに利用できる可能性が示唆された。また, 蒸散速度/飽差の比はESWと密接に関係していた。土壌乾燥履歴が異なる場合でも, 濯水条件での蒸散速度, ESWをそれぞれ基準として算出した相対的な蒸散速度とESWの間には密接な直線関係が得られた (r=0.91**) 。気孔抵抗に対する大気飽差の直接的影響は認められず, 少なくとも1日1回日中のモニタリングでは, 気孔抵抗に対する大気飽差の影響を考慮する必要はないと考えられた。
  • 稲葉 健五
    1989 年 58 巻 3 号 p. 438-439
    発行日: 1989/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    コンニャクの場合, 種イモとして利用する球茎の重さは, 地上部の大きさを支配し, 新球茎と生子の肥大に大きく影響すると考えられている。しかし, 同一の重さの種球茎を利用しても, 遺伝的に雑多と考えられている「在来種」は無論, 「あかぎおおだま」や「はるなくろ」においても, 地上部の生育・生子と新球茎の肥大が, かならずしも均一にならないことが多い。この原因の一つとしては, 重さ以外の種球茎の条件の違いが考えられる。そこで, 本試験においては, 植付け時期と一部保存温度を変え, 種球茎の苞芽 (以下, 芽と表現) の発達状況と生育・収量との関係を調べた結果, 種球茎の状態が生育・収量に多少の影響を与えることが明らかになったので報告する。
  • 根本 圭介, 山崎 耕宇
    1989 年 58 巻 3 号 p. 440-441
    発行日: 1989/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    さきに著者らは, 水稲 (品種: 農林29号) の茎と1次根の間の形態的相関を要素に着目して検討し, 1次根の直径および数が茎の直径, とくに, 1次根が分化してくる茎中心部の直径と密接に関連していることを見いだした。本研究では, 供試品種を増やし, このような関係がどの程度普遍的なものであるかという点について, さらに検討を加えた。
  • 前田 和美
    1989 年 58 巻 3 号 p. 442-454
    発行日: 1989/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
  • 鷲尾 養
    1989 年 58 巻 3 号 p. 455-457
    発行日: 1989/09/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
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