1989 年 58 巻 3 号 p. 424-429
本研究は, イネのみかけの光合成速度, 蒸散速度, 水利用効率に対して, 窒素施用量と土壌水分欠乏処理との間に相互作用が見られるかどうかを明らかにしようとしたものである。すなわち光合成速度, 蒸散速度, 水利用効率に対する土壌水分欠乏の影響が, 窒素の施用量によって変化するかどうかを明らかにしようとしたものである。実験には 1/2,000a ワグナーポットを使用し, 3.2 g, 0.4 gの2段階の窒素条件下で植物を生育させた。7葉期に達した植物に土壌水分欠乏処理を施し, それらのガス交換速度を測定した。その結果, 有意な相互作用が認められ, 多窒素施用区の植物体は, 光合成, 蒸散速度のいずれにおいても少窒素施用区の植物体より土壌水分欠乏の影響を大きくうけていた。特にその影響は蒸散速度において大きかった。このことから, 多窒素施用区の植物体では, その気孔が水ストレスに対して, より敏感に反応することが考えられた。同時に, 多窒素施用区の植物体では葉肉細胞内の光合成系の活性が高く保たれており, 少窒素施用区の植物体に比較して水ストレス条件下でも大きい光合成速度を有していた。このように多窒素施用区の植物体は, 水ストレス条件下でも光合成系の活性を高く維持させるとともに, 水ストレス条件に対して気孔を敏感に反応させることによって水利用効率を高く保っていることが明らかとなった。