抄録
3種類の灌漑条件におけるコムギ群落について, 土壌乾燥と大気の蒸発要求度 (飽差) に対する蒸散速度および気孔抵抗の反応を全生育期間にわたって調べた。中性子土壌水分計によって測定した体積含水率から利用可能土壌水分 (ESW, %) を算出し, これによって土壌の水分状態を経時的に把握した。蒸散速度とESWとの間には, ESWの低い場合に比較的明瞭な正の相関関係があったが, 高い場合にはまったく相関がなかった。逆に, 蒸散速度と大気飽差の間には, ESWが低い乾燥条件では一定の関係がないのに対して, ESWが高い条件では比較的強い正の相関関係が認められた。したがって, 見かけ上, ESWが約40%以下のときには土壌水分が, それ以上のときには飽差が蒸散速度をそれぞれ律速していた。気孔抵抗はESWが約40%以上ではほとんどESWの影響を受けずかつ非常に小さかったが, それ以下になるとESWの低下にともなって反比例的に増加し, 約5%では極度に大きくなった。両者の関係は極めて密接で (r=0.82**), この関係を土壌水分状態のモニタリングに利用できる可能性が示唆された。また, 蒸散速度/飽差の比はESWと密接に関係していた。土壌乾燥履歴が異なる場合でも, 濯水条件での蒸散速度, ESWをそれぞれ基準として算出した相対的な蒸散速度とESWの間には密接な直線関係が得られた (r=0.91**) 。気孔抵抗に対する大気飽差の直接的影響は認められず, 少なくとも1日1回日中のモニタリングでは, 気孔抵抗に対する大気飽差の影響を考慮する必要はないと考えられた。