抄録
窒素施与量を150, 250および350 kg/ha (それぞれ少, 中, 多窒素区とする。) の3段階に変えた圃場条件下でトウモロコシ (品種P 3358) を栽培し, 播種後70日目に展開完了最上位葉についてポリエチレングリコール法による葉の細胞膜安定性, 葉の水ポテンシャル, 浸透ポテンシャルおよび細胞液中の溶質濃度を測定し, 葉の水分状態と細胞膜安定性に及ぼす窒素施与の影響を明らかにした。地上部新鮮重は窒素施与に伴い増加し, 少窒素区に対する多窒素区のそれの増加率は約4.1倍であった。3処理区の葉の水ポテンシャルは少>中>多窒素区の順に低く, 多窒素区ほど葉の水ポテンシャルの低下は大きかった。しかし, 水ストレスに対する葉の細胞膜安定性は, 逆に多窒素区ほど高かった。多窒素区の葉の浸透ポテンシャルは, 中および少窒素区に比べて低かったが, 膨圧は逆に少窒素区に比べて多窒素区で著しく高かった。窒素施与量の増加にともない葉細胞液中のカリ, カルシウム, リン, 窒素, アルコール可溶糖さらには遊離アミノ酸濃度が著しく増加した。以上の結果, 多窒素区では少窒素区に比べて葉の水ポテンシャルが低下したにもかかわらず, 地上部新鮮重および細胞膜安定性の増加が認められ, その主たる要因として糖, カリ, 窒素の集積による葉の浸透調整力の増大にともない, 葉の膨圧が高く維持されるためと考えられる。