日本作物学会紀事
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水欠乏がコムギの光合成に及ぼす影響 : 第5報 組織内水分状態の植物体部分間差
徐 会連石井 龍一
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1990 年 59 巻 2 号 p. 384-389

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抄録
植物体各部分における光合成での耐乾性の違いのメカニズムを知るために, 異なる土壌水分レベルの下での植物体各部分の水ポテンシャル (WP), 浸透ポテンシャル (OP), 圧ポテンシャル (TP) 及び相対含水率 (RWC) を調査した。各部分とも土壌水分欠乏が進むにつれてOPが低下し, 全ての部分で浸透調整が起こっていることが示されたが, OPの低下程度も, OPの低下によって生ずるTPとRWCの保持程度も部分によって異なっていた。すなわち, TPもRWCも, ある一定の水ポテンシャルのもとで比較すると, 上位葉身が下位葉身より高く, 茎と止葉葉鞘は止葉葉身とほぼ同じ傾向を示した。つまり, この順序で, 組織内の水分状態は好適に保たれていることがわかった。しかし, 穂は他の部分とは極めて異なる傾向を示し, TPは葉身, 茎, 葉鞘より低いにもかかわらず, RWCはこれらよりも高かった。このことはOPの低下に伴って起こるTPとRWCの保持機構が穂と他の部分とで異なっていることを示唆する。そこで, OP低下の原因をWrightらが提唱した濃縮効果と溶質蓄積効果とに分けて解析したところ, 穂では他の部分に比べて濃縮効果が小さく, 組織内の水分が出にくいことがわかり, このことが穂のRWCを高く保持する原因と考えられた。葉位別に比較すると, 上位葉は下位葉より濃縮効果が低く, 溶質蓄積効果が高いこともわかった。さらに穂が上述の特性を示す理由を調べるために, 穎と粒とに分けて水分関係に関わるパラメータを測定した結果, 粒の存在がその理由になっていることが示唆された。
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