日本作物学会紀事
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野外条件で大気CO2濃度を倍加したワタにおける気孔の動態および光合成と蒸散の関係
井上 吉雄KIMBALL Bruce A.MAUNEY Jack R.JACKSON Ray D.PIMER Paul J. Jr.REGINATO Robert J.
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1990 年 59 巻 3 号 p. 510-517

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抄録

野外条件でCO2濃度倍加処理を行ったワタについて, 個葉の光合成速度と蒸散速度との関係を調べた。コンピュータ制御のオープントップチェンバーによって, 全生育期間にわたり350μmol mol-1および650μmol mol-1の2段階のCO2濃度が設けられた。350および650μmol mol-1の各CO2濃度下において, 光合成速度と蒸散速度/飽差の間には各々極めて密接な直線関係が得られた。また, 650μmol mol-1における回帰直線の傾きは, 350μmol mol-1でのそれに比べて約62%大きかった。気孔と葉面境界層における水蒸気およびCO2の輸送過程の数式モデルに基づいてこの直線性を解析し, 気孔内外のCO2濃度差が各大気CO2濃度においてはほぼ一定であることを示した。一方, 大気CO2濃度が変化した場合の気孔内外のCO2濃度の比較から, 両者の間には密接な直線関係が存在しその比はほぼ一定に保たれることがわかった。これらの解析から, 大気CO2濃度が350および650μmol mol-1の時の気孔内外のCO2濃度差は各々約60および95μmol mol-1程度と評価された。CO2濃度の倍加は気孔の開孔に対して負のフィードバック効果をもたらし気孔抵抗を約38%増加させたため, 大気CO2濃度の倍加に伴うワタの個葉光合成速度の実質的な増加は約17%と評価された。光合成速度と蒸散速度/飽差の間の密接な比例関係は大気CO2濃度を変えた場合にも成立することが明らかになり, この関係は作物の光合成活性を遠隔的に評価する上で有用と考えられた。

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