日本作物学会紀事
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化学交雑剤HGR-626の散布によるイネ花器官の形態形成的変化
武岡 洋治伊藤 雅章山村 三郎坂 斉
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1990 年 59 巻 3 号 p. 528-534

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抄録

化学交雑剤HGR 626の散布の影響によるイネ花器官における形態形成の変化を走査電子顕微鏡 (SEM) および実体顕微鏡で観察し, 各種環境ストレスで誘発される形態形成の変化と比較した。水稲日本晴を1/5000aポットで土耕し, 穎花始源体分化期 (処理I期), または減数分裂盛期 (処理II期) に, 10または50 ppmの同剤水溶液を茎葉散布した。出穂期にFAAで固定した小穂を実体顕微鏡で解剖するとともに, アセトン脱水・臨界点乾燥・金コーティングの後SEMで観察した。処理I期の小穂では両濃度区ともに (1) 小穂器官が標準より矮小化し, 内側に湾曲した葯の割断面では, (2) 花粉母細胞が正常に分化せず柔細胞のみが放射状に配列しているか, (3) 小胞子と葯壁の形成が途中で停止しているもの, (4) 花粉外殻の形状が異常で内容物も充実不十分なもの, または (5) 花粉が隣同士癒着しているものなどが認められた。雌ずいでは組織・器官の形成阻害は見られず, 解剖小穂433個の56.4%が柱頭または子房を増殖していた。処理II期の小穂ではこの種の変化はなく, 同剤供与下での小穂形態形成は処理時期により様相を異にした。性発現における雌性化傾向は環境ストレスにより発現する既往の結果と類似しており, 同剤の影響下での小穂形態形成もこれらによる場合と同様の経過を辿ることが明かになった。処理II期の小穂に処理I期のような変化が生じなかったのは, 処理時期における小穂始源体の頂端分裂組織における形態形成段階の相違によると考えた。

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