抄録
松尾らが開発した大苗移植法により誘発した青立ち症イネ小穂における形態形成の変化の特徴を明らかにするために実体顕微鏡および走査電子顕微鏡 (SEM) による観察を行った。1987年四国農試で陸稲H4を本法により栽培して得た青立穂を出穂期に固定し, 実体顕微鏡下で生殖器官の変異の態様を解剖調査するとともに, 主要な変異の小穂をアセトン脱水・臨界点乾燥・金コーティングの後15 keV SEMで観察した。(1) 内部に生殖器官を欠失した小穂は全解剖小穂数 (407) の93.9%に上ったが, 18.9%の小穂が小穂を反復して分化した小穂反復型貫生体を発現していた。実体顕微鏡下で微小な突起に見えたものは明かに小穂始源体であることをSEMにより確認した。(2) 3.7%の小穂で雌ずいが多柱頭化または群生していた。(3) 殆ど全ての小穂で外穎と内穎とが変形して釣合不能になっていたが, 全体の40.0%の小穂で特に内穎が退化し, 11.5%の小穂で護穎, 外穎ないし内穎が増加していた。生殖器官を欠失した小穂は内部に微小突起が認められたことから, 生育条件により新たに貫生体を発達させる可能性があると考えた。誘発青立ち症イネの生殖器官における形態形成の変化は, 雌ずいの増生と小穂反復型貫生体の発現を特徴とし, 他の環境ストレスによる変化と共通性をもつことを明らかにした。小穂器官の形態形成と性発現の面から貫生発達の意義を考察した。