日本作物学会紀事
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ナトリウムイオンの存在がテンサイの根の形態, リン酸代謝および蓄積化合物に及ぼす影響のNMRによる解析
狩野 広美石田 信昭高岸 秀次郎白田 和人小泉 美香
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1993 年 62 巻 1 号 p. 95-104

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抄録
テンサイの根の形態, リン酸代謝及び蓄積化合物に対するナトリウムイオンの影響を1H-NMRイメージング, 31P-, 23Na-および13C-NMRによって検討した. 23Na-NMRによると, 根中のナトリウム濃度は180mMナトリウムを含む培地では9.2mMに達した. 31P-NMRスペクトルにおいて液胞中のリン酸シグナルの線幅がナトリウムの添加によって広がるという事実より, テンサイの根はナトリウムが細胞に与える害作用を軽減させる機構を備えているものと推定される. 1H-NMRイメージング画像においては, 表皮及び表皮に隣接する部分と維管束の周辺に強い水のシグナルが認められたが, ナトリウム処理によって水のシグナルは著しく弱くなった. 1H-NMRイメージング画像においてシグナルの強い部分はTNBT (テトラニトロ・ブルー・テトラゾリウム) で染色される部分と一致するので, 1H-NMRイメージングで検出し得る水は細胞の代謝活性が強い部分に存在するものと思われる. 80%エタノール抽出物の13C-NMRスペクトルによると, テンサイの根には蔗糖, ベタインおよびグルタミンが蓄積され, ナトリウム処理をすると蔗糖及びベタインが増加した. ナトリウム処理によって, これらの物質が細胞内に過剰に蓄積されて, 1H-NMRシグナルが弱くなる, その結果, 細胞の生理活性が抑制されるものと思われる. 本研究の結果よりテンサイの根の細胞は本質的に強い耐塩性を示すものと思われる. しかし, その生育は濃いナトリウムを含む培地では抑制され, 長期間の順化によって, さらに耐塩性が強くなるわけではないものと思われる.
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