抄録
一般に, 作物群落では, 小さく立ち型の葉をもち, 光合成有効放射 (PAR) を内部まで深く透過させるような構造をもつ草型が理想型であると考えられてきた. しかしながら, コムギにおいては必ずしもすべての多収品種がこのような草型をもつとは限らないようである. 本試験では, 育成地が異なり, 特に穂および止葉の形態が大きく異なる3品種 (九州で育成された半矮性・早生の農林61号, 北海道で育成された半矮性・早生のハルユタカおよびドイツで育成された長稈・晩生のSelpek) を供試し, 早播き (4月13日播種) および晩播き (5月10日播種) することで圃場条件において異なる6条件での群落構造およびPARの透過分布を調査した (400個体・m-2). 穂および下位葉の表面積は3品種とも早播区が晩播区に比べて大きく, 止葉の表面積はこれとは逆に晩播区が早播区に比べて大きかった. また, 穂の表面積は芒の長いハルユタカが芒の短い農林61号および芒のないSelpekに比べて大きく, 穂の下でのPAR透過率はハルユタカで低かった. 一方, 止葉の表面積はハルユタカとSelpekが農林61号に比べて大きく, 止葉の下でのPAR透過率はハルユタカとSelpekで低かったが, バイオマス生産はハルユタカとSelpekで高かった. 下位葉の下でのPAR透過率は晩播区で高く, 特に農林61号とSelpekで高かった. さらに穂, 止葉および下位葉の表面積とこれらの器官の位置する層でのPAR透過率との間には有意な負の相関関係が認められた. 回帰式による分析の結果, 表面積による遮光の効果は, 葉身がほぼ水平に傾いていた止葉が立ち型の下位葉よりも高かった. また, 稈の表面積による遮光は止葉の層で27%, 下位葉の層で51%であると推定した.