抄録
イネ幼植物の生育型の一つであるMCタイプの意義を明らかにする目的で, その代表的な品種Basmati 217を用いて, 幼植物中のMC個体の外部形態および内部形態の特徴を調べた. 玄米を消毒後, 0.8%寒天培地を含む試験管に置床し, 30℃, 完全暗条件下で14日間無菌培養した. MC個体の鞘葉長およぴM/C比(中茎長/鞘葉長の比)の頻度分布をとると, それぞれ大小2つの山が認められた. この2つの山は, 鞘葉節冠根の有無によって分けることができる2つのグループが混在することによるものであった. そこで, 冠根非出現型MC個体(MCN)と冠根出現型MC個体(MCR)に分けると鞘葉長の平均値はそれぞれ, 8.3±0.5mm, 35.2±1.4mm, M/C比の平均値はそれぞれ, 16.6±0.9, 2.8±0.3となり明らかに異なっていた. MCRでは中茎長と鞘葉長との間に, 1%レベルで有意な負の相関(r=-0.537)が認められたが, MCNでは認められなかった(r=+0.032). MC個体は, 発芽時に比べて葉の分化は進んでいた. しかし, MCNはMCRに比べて, 分化葉数が0.6枚少なく, 葉の発育が遅延していた. 以上の結果をまとめると, 暗条件下におけるイネ芽生器官の伸長様式は鞘葉からの第1葉以降の葉の抽出, 鞘葉長, 鞘葉節冠根の有無により, 冠根非出現型MC個体, 冠根出現型MC個体, 非MC個体の3つに分けることが妥当であるとの結論を得た. なお, 深播き適応性について若干の考察を行った.