抄録
イネの穂および小穂の形成に対する塩の影響を発育形態的に解明する目的で一連の研究を行った. 本報では, 穂および小穂形成と深く関わる幼穂形成期の茎葉と出穂の外部形態について塩処理による影響を調べた. 実験は1992年と1993年に2度実施し, 日本型水稲品種の日本晴, ジャワ型水稲のBlue bonnet, および土壌ストレス感受性の日本型品種孝之助をそれぞれ供試した. 幼穂形成期, および幼穂形成期から登熟期まで塩化ナトリウム液を処理し, 生育状況と塩害病状について観察調査した. 塩障害の現れ方は調査形質によって品種間で異なっていた. 幼穂形成期の塩処理により, 葉身先端部から緑葉が黄変し, 下位葉から枯れ上がった. 処理塩濃度と処理期間が長くなるにつれて, 緑葉数が減少し, 枯れ葉の葉数が増加した. 一層進んだ塩障害症状下では, 最上位の止葉枯れが下位葉の枯れより先行していた. 後期塩処理の影響として稈部の伸長抑制や, 高位節における弱小分げつ遅発が認められた. また出穂開始の遅れや, 出穂期間の延長が見られたが, これら出穂遅延の影響の現れ方は品種により異なっていた. 出穂障害としては, 転倒出穂や穂の出竦み現象が生じた. 以上の結果を既往の報告と比較することにより, 異なる不良環境条件下で生ずる外部形態的変異に共通性があることを見出し, その生理的背景について考察した.