抄録
ジャガイモ塊茎のプラスチド-アミロプラスト系におけるデンプンの蓄積過程とその微細構造的特徴を光学顕微鏡と電子顕微鏡で観察した.電子顕微鏡観察によると,やや扁平な楕円体もしくは卵形のアミロプラストは単粒デンプンを形成し,大型化しても増殖することが認められた.プラスチドおよびアミロプラストは篩部周辺の新生した柔細胞において著しい増殖とデンプン粒の形成を行い,内皮層と周辺髄の柔細胞に多量のデンプンを蓄積することが明らかになった.プラスチド内のストロマとアミロプラスト内に局在して存在するストロマには,様々な構造物が観察された.好オスミウム性顆粒は密集した高電子密度の内膜系において形成されていた.また,密集した高電子密度の内膜系は,一部の膜を形成中のデンプン粒近傍まで伸長させて,細胞質からデンプン合成の場へ同化産物などのデンプン合成に必要な物質を効率的に輸送する機能をもつと考えられた.また,顆粒状物質が単膜によって包まれた構造物である膜包体は,その一部の包膜を形成中のデンプン粒の方向へ伸長させていることが認められた.さらに,膜包体内部に認められた顆粒状物質は,デンプン粒の表面付近にも分布していた.これらのことから,膜包体内に存在すると報告されているブランチングエンザイムが,膜包体内で合成されデンプン合成の場へ供給されていると考えられた.さらに,従来含鉄物質であるフィトフェリチンと考えられてきたプラスチド-アミロプラスト系内に認められる膜に包まれていない集合した顆粒は,塩基性ビスマスの染色反応から多糖類であることが明らかになった.この多糖類は,プラスチドおよびアミロプラスト内に取り込まれた糖の余剰分で一時的に形成されたもので,デンプンの合成と蓄積の調節を行っていることが示唆された.光学顕微鏡観察では,偏心円状の層構造がデンプン粒に認められた.以上の観察から,ジャガイモ塊茎のアミロプラストは単粒デンプンの形成を局在させたストロマ部分で局部的,集中的に行うと考えられた.