イネ(Oryza sativa L.)品種オオチカラのM
2種子を1μM2,4-D(2,4-ジクロルフェノキシ酢酸)で培養し,得られた約60000個体のM
2幼植物集団から26個体の2,4-D耐性変異体を選抜した.そのうち,M
3世代でも高度な2,4-D耐性を示し,かつ形質の分離も認められなかったRM109を2,4-D耐性突然変異体であると判断し,その特性を解析した.RM109及び野生型オオチカラ幼植物を寒天培地で培養したところ,RM109幼植物の根には側根がまったく観察されなかった.また,オオチカラの種子根は鉛直方向に伸長するが,RM109のそれはオオチカラとは顕著に異なり,斜め方向に伸長した.RM109種子根の組織を光学顕微鏡で観察したところ,側根原基が全く観察されず,また分化領域及び分裂領域の内鞘細胞数がオオチカラの72%~84%であり,オオチカラより有意に少なかったことから,RM109の無側根は内鞘細胞の分裂異常に起因すると考えられた.RM109種子根根冠の平衡細胞内におけるアミロプラストの数はオオチカラのそれとほぼ同じであったが,アミロプラストの大きさはオオチカラの49%~57%であり,オオチカラのそれより顕著に小さく,RM109種子根の重力屈性異常は根冠の平衡細胞内におけるアミロプラストの大きさに起因すると推察された.RM109が高度な2,4-D耐性を示すことを併せ考えると,側根の分化や根の重力屈性は内生オーキシンと密接に関連することが示唆される.次に,RM109とオオチカラとの交雑後代及びそれらの両親の幼植物における2,4-D耐性を調査したところ,F
1は耐性型であり,F
2では耐性型と感受性型が3:1に分離した.これらの結果から,RM109の2,4-D耐性,無側根性及び種子根の重力屈性異常は単因子優性遺伝子(Lrt 1)に支配されていると推察した.
抄録全体を表示