抄録
水稲品種ササニシキを用い, 段階的に水位を上げる処理が分げつ出現の時期と節位とに及ぼす影響について検討した。葉齢7.5の時に主茎の第7葉の葉節が水没する深水処理を行い, その後, 葉齢が1進むごとに, その時点での最上位葉の葉節が水没する処理を行った (段階的深水処理)。深水処理開始から深水処理開始後13日目にかけて, 5号分げつ (T5) と T6は対照区では出現したが, 深水処理により出現が抑制され, 深水処理した個体の1茎あたりの茎数増加速度は対照区より小さかった。しかし, 3段階目の深水処理を行った13日目から18日目にかけては, 前段階までと同様の基準で水位を上げているにも関わらず, この期間に出現した分げつ位ごとの出現率は対照区とほぼ同じで, 深水処理した個体の1茎あたりの茎数増加速度は対照区より大きくなった。このように, 茎数増加に関しては, 各段階の深水処理に対して, 水稲は常に一様な反応を示さなかった。特に3段階目での反応は, 最初の2段階目までの深水処理により, 水稲が深水に適応できる生理的・形態的な体勢を整えたことによると考えられた。また, 13日目以降に出現した分げつ位で対照区とほぼ同程度の出現率であったものは, 深水処理開始から13日目までの期間に出現が抑制された分げつ位ではなく, これらの分げつ位より上位節のものであった。このことから, 深水処理により一度, 出現が抑制された分げつ位では, その後, 他の分げつが出現できる状態になっても出現しなかったことが確認できた。