最新のディスプレイは広色域化を謳っている.この広色域化は,原色の分光分布の狭帯域化により実現されている.しかし,狭帯域の原色では,オブザーバーメタメリズムが現われやすい(Ramanath 2008).このことから,異常3色覚の等色関数は,3色覚での個人差以上に標準観測者の等色関数と異なっているため,オブザーバーメタメリズムがより顕著に観察されると予測される.そこで,27色のテスト色票と狭帯域の原色からなるレーザーテレビを刺激呈示装置として用い,異常3色覚の色の見えを2つの実験によって測定した.ひとつめの実験では,色票と等しい三刺激値をレーザーテレビに呈示し,それと色票の間で色差を評価した.弱度2型3色覚でも,色票とレーザーテレビの色が異なるカテゴリの色として知覚される色も存在するという結果を得た.ふたつめの実験は色票とレーザーテレビとの間で等色を行うことであった.その結果,これらの間に平均してΔEab*で33という大きな色差が存在した.これらのことは,異常3色覚のような色覚多様性に対して,広色域ディスプレイにて測色的色再現を実現することが困難であることを意味する.