2019 年 43 巻 3+ 号 p. 180-
シーンの枠組み(gist)の把握や物体認知の同定課題において,対象に相応しい色(以下,典型色とする)を有する刺激では,典型色による促進効果が示され,さらに,対象の同定が難しい場合に色の促進効果がより明確になることが報告されている.しかし,表情の典型色という観点から典型色による表情判断への効果はこれまで調べられていない.本研究では,怒りや悲しみなどの表情が特定の色と関連するという結果から(Takahashi & Kawabata,2018),各表情に関連する色を典型色と捉え,表情の典型色が表情同定にどのような影響を及ぼすかを調査する.実験では,特定の色との関連が明確だった怒り,悲しみ,無感情の表情を対象とし,表情変化の度合い(表情判断の難易度)と顔色(典型色と非典型色)を変化させて,表情判断課題を行った.その結果,全ての表情における正答率と反応時間で,表情の典型色による促進効果が示され,無感情では,怒りと悲しみの典型色による抑制効果が示された.感情間で表情自体の判断の難易度が異なり,感情によって典型色の効果の現れ方も異なることが明らかになった.