2020 年 44 巻 3+ 号 p. 62-
筆者らはこれまでに絹の綸子や緞子の和装,茶道具の一つである帛紗の分光特性と質感印象を調べ,それらが仕草によって時間的空間的に形状や艶めきと陰影を変化させるさまを「綺麗」とする感受性について考察してきた.変化に誘発される「綺麗」は,螺鈿,蝶や甲虫,鳥の羽根など天然の構造色素材を用いた美術工芸品にも見受けられる.本研究では,A.自然な状態での孔雀羽根(上尾筒),B.上尾筒の後羽根部の羽枝のみを水平に重ね並べた試料,C.帯匠・誉田屋源兵衛製「孔雀羽根織帯」の孔雀羽根織部分,の光学的特徴を,顕微鏡を用いての照明幾何条件に基づく微細構造観察と,変角分光イメージング装置を用いての構造色の分光特性,及びCIELAB空間上の分布を調査した.3)に通じる2)について,照明の幾何条件が垂直方向15°から75°に変化すると赤みから緑みへと反対色の色相変化を引き起こし,また方位方向の変化にはあまり依存しない事を確認した.眼状紋の硬く密で光沢感ある羽枝による分裂補色配色は華やかだが,先述した綺麗感は,眼状紋部より疎らながら羽枝が長く小羽枝も広がって空気に揺れる後羽根部羽枝の光輝感を伴う色相変化により向上すると推察される.