日本交通科学学会誌
Online ISSN : 2433-4545
Print ISSN : 2188-3874
認知症患者の自動車運転に関する責任
馬塲 美年子
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キーワード: 認知症, 運転, 責任, 法的問題
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2017 年 16 巻 2 号 p. 11-18

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抄録

近年、高齢運転者による事故が問題となっている。高齢化が進むわが国では、高齢運転者対策は喫緊の課題である。認知症(アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症)と診断された人は、免許を更新することができない。2017年改正道路交通法の施行により、高齢者の免許更新手続が変更となり、認知機能検査後に、認知症専門医などの診断が必要となる人が5万人以上になると推計されている。また、新たに臨時認知機能検査・臨時高齢者講習が導入された。しかし、認知機能検査は、記憶力・判断力から認知機能について判断するものであるため、比較的記憶力・判断力が保たれている患者の場合、第1分類の判定を免れることもある。したがって、検査項目および対象年齢について検討が必要と思われる。認知症患者が事故を起こした場合、家族に賠償責任が発生することがある。徘徊中の認知症患者の鉄道事故における最高裁判決(平成28年3月1日)で、家族の責任は否定されたが、この判決は認知症患者の家族の賠償責任を否定したものではない。今後、個々の事例ごとに監督義務者にあたるか、不法行為責任を負うかという観点から判断されることになる。また、認知症患者は高齢であるため、複数の疾患に罹患している可能性を考慮する必要があり、刑事責任を問うにあたって、事故との因果関係の判断が困難となることがある。以上のように、高齢者や認知症患者の運転に関しては、様々な法的問題がある。問題に対応するために、法改正や新しい制度の導入が行われてきたが、まだ現況に即しているとはいえず、今後さらなる検討が必要だと思われる。

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