日本交通科学学会誌
Online ISSN : 2433-4545
Print ISSN : 2188-3874
サブマリン現象により回腸穿孔をきたした症例
近藤 弘基井上 郁赤坂 喜久市岡 宏顕坂東 李紗池谷 博
著者情報
ジャーナル フリー

2021 年 20 巻 2 号 p. 18-22

詳細
抄録
シートベルトの着用が義務づけられて以降、交通事故による死亡率は大幅に低下し現在までその傾向は続いている。一方で、シートベルトを着用することにより交通事故で衝突した際、サブマリン現象を生じることが近年注目されている。わが国においてサブマリン現象の発生率を詳細に検討した報告はないが、その機序としてラップベルトが十分に機能できていないことが知られており、とくに体格の小さな乗客や後部座席に乗っている場合に生じやすいとされる。 今回われわれは衝突時にサブマリン現象をきたし、シートベルトと脊椎の間に回腸が挟まれ圧迫により損傷し穿孔した結果、腹膜炎を生じ死に至った症例を経験した。患屍は70歳女性、身長147cm、体重48㎏である。時速20〜30kmで軽乗用自動車を運転中に歩道に乗り上げ、門柱に正面衝突した。医療機関を受診し胸部X線検査のみを施行されるも、画像上明らかな外傷性骨折は指摘されず、全身打撲と診断され帰宅となった。2日目の朝食後、複数回嘔吐し心肺停止に至った。医療機関に搬送されるも死亡が確認された。その後の剖検で、体表には右頸部から左腋窩にかけてと、両側腸骨稜の高さにシートベルト痕と皮下のデコルマンがみられており、開腹の際には同部直下の回腸穿孔およびそれに起因すると考えられる腹膜炎が観察された。以上の結果からサブマリン現象に起因する回腸の圧迫および穿孔が疑われた。 この症例は事故により比較的遅い速度でサブマリン現象を生じ、腸管損傷をきたすというまれな症例であり交通事故による外傷評価の難しさを改めて実感できる症例であった。
著者関連情報
© 2021 一般社団法人 日本交通科学学会
前の記事 次の記事
feedback
Top