日本交通科学学会誌
Online ISSN : 2433-4545
Print ISSN : 2188-3874
20 巻, 2 号
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  • 中西 智之, 森口 真吾, 鴻池 善彦, 津久田 純平
    2021 年 20 巻 2 号 p. 3-8
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/24
    ジャーナル オープンアクセス
    遠隔ICU(以下、tele-ICU)は近年叫ばれている少子高齢化、基礎疾患を有する患者の煩雑な周術期管理さらには集中治療医の不足、などから注目を集めている。技術革新に伴い、音声だけではなく、生体モニターや患者の状態を画面上で共有し、さながらオンサイトでケアをする程度まで進歩してきている。患者の死亡率やQOLを改善するといった報告もなされており、将来的にはオンサイトチームによる集中治療管理に取って代わることが予想されている。日本におけるtele-ICUの導入は欧米との文化的な違いやベッド数の違いなどから遅れをとってきたが、ここ数年になってようやく機運が高まり国からの支援が得られるようになってきた。この状況をさらに加速させたのが新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)のパンデミックである。医師や看護師、さらにはCOVID-19診療にかかわるコメディカルスタッフの院内クラスターを抑える目的にtele-ICUを導入する病院が増えている。米国ではパンデミックによる医療崩壊が生じ、tele-ICUが介入することで標準化した治療の提供にも寄与している。tele-ICUはテクノロジーの恩恵を受けて今後ますます進歩するであろう。
  • 松岡 浩仁, 吉沢 彰洋, 櫻井 和徳
    2021 年 20 巻 2 号 p. 9-17
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/24
    ジャーナル オープンアクセス
    救急車等緊急自動車の夜間の視認性向上を目的とした、再帰性反射材を用いたバッテンバーグマーキングやシェブロンマーキングの効果について実車を用いて検証している。プリズム型再帰性反射材をバックドアのみに帯状に貼付した車両、プリズム型再帰性反射材を車体周囲に帯状に貼付した車両、およびビーズ型再帰性反射材で車体サイドと後部ドアにバッテンバーグマーキング、およびシェブロンマーキングを施し、さらに車体周囲にプリズム型反射材を帯状に貼付した車両を用意し、およそ40m離れた地点からハイビームおよびロービームで照射して、そのときの様子をCCDカメラで撮影している。それらの画像に対して、定性的および定量的な評価を加えた。定量的な評価では、CCD画像のRGBカラーモデルをHSB色空間に変換し、反射材の白、赤と黄色それぞれを色相、彩度、明度の3要素から評価した。  定性的には、再帰性反射材を用いることによって、一般車両では認識が困難となる40m離れた位置からのロービーム照射であっても車両認識が可能で、バッテンバーグマーキングなど、ある程度の面積をもたせることはとくに有効であることを示した。また定量的には、画像をHSB色空間で表すことによって、光の当たり方などによる微妙な色の違いをグラフ上に表すことができ、マーキングの効果を検証する方法として有効であることを確かめた。
  • 近藤 弘基, 井上 郁, 赤坂 喜久, 市岡 宏顕, 坂東 李紗, 池谷 博
    2021 年 20 巻 2 号 p. 18-22
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/24
    ジャーナル オープンアクセス
    シートベルトの着用が義務づけられて以降、交通事故による死亡率は大幅に低下し現在までその傾向は続いている。一方で、シートベルトを着用することにより交通事故で衝突した際、サブマリン現象を生じることが近年注目されている。わが国においてサブマリン現象の発生率を詳細に検討した報告はないが、その機序としてラップベルトが十分に機能できていないことが知られており、とくに体格の小さな乗客や後部座席に乗っている場合に生じやすいとされる。 今回われわれは衝突時にサブマリン現象をきたし、シートベルトと脊椎の間に回腸が挟まれ圧迫により損傷し穿孔した結果、腹膜炎を生じ死に至った症例を経験した。患屍は70歳女性、身長147cm、体重48㎏である。時速20〜30kmで軽乗用自動車を運転中に歩道に乗り上げ、門柱に正面衝突した。医療機関を受診し胸部X線検査のみを施行されるも、画像上明らかな外傷性骨折は指摘されず、全身打撲と診断され帰宅となった。2日目の朝食後、複数回嘔吐し心肺停止に至った。医療機関に搬送されるも死亡が確認された。その後の剖検で、体表には右頸部から左腋窩にかけてと、両側腸骨稜の高さにシートベルト痕と皮下のデコルマンがみられており、開腹の際には同部直下の回腸穿孔およびそれに起因すると考えられる腹膜炎が観察された。以上の結果からサブマリン現象に起因する回腸の圧迫および穿孔が疑われた。 この症例は事故により比較的遅い速度でサブマリン現象を生じ、腸管損傷をきたすというまれな症例であり交通事故による外傷評価の難しさを改めて実感できる症例であった。
  • 小川 智生, 藤田 和樹, 小林 康孝, 一杉 正仁
    2021 年 20 巻 2 号 p. 23-29
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/24
    ジャーナル オープンアクセス
    【緒言】障害者の社会参加に自動車運転は欠かせないが、ペダルの不適切操作が事故につながる可能性がある。脳卒中後遺症による片麻痺患者では、ブレーキペダル操作を患側下肢もしくは健側下肢で行うが、その安全性を検証することは重要である。【対象および方法】脳出血後21カ月経過した右不全麻痺の57歳男性患者(下肢Brunnstrom Recovery Stage Ⅴ、足関節底屈筋のModified Ashworth Scale 1+)を対象に、三次元動作解析装置(myo MOTION)と表面筋電図(Telemyo DTS)を用いて、自動車ブレーキペダル急制動操作の特徴を解析した。下肢操作はアクセル緩解期と踏み替え期に相分けし、運動学的データと筋活動データを算出した。なお、対照群として年齢をマッチングさせた健常者3名のデータを使用した。【結果】反応時間は、右下肢0.68秒、左下肢0.53秒と、右下肢が左下肢よりも遅く、左下肢は健常者左下肢(0.51秒)と同程度であった。踏み替え期の足関節ピーク背屈角度は、右下肢8.0°、左下肢18.3°と、右下肢は左下肢よりも小さく、左下肢は健常者左下肢(17.8°)と同程度だった。足関節ピーク背屈角速度は、右下肢195.7°/秒、左下肢350.8°/秒と、右下肢は左下肢よりも遅く、左下肢は健常者左下肢(321.6°/秒)と同程度だった。前脛骨筋とヒラメ筋の同時活動時間割合は、アクセル緩解期で右下肢26.5%、左下肢24.7%と、右下肢と左下肢は同程度で、両側下肢で健常者左下肢(12.7%)よりも高値を示した。踏み替え期では右下肢66.3%、左下肢60.5%、健常者左下肢61.3%と、いずれの下肢においても同程度であった。【結論】脳卒中後遺症患者では、健常側下肢においても前脛骨筋とヒラメ筋が同時収縮しており、誤操作が生じてしまう可能性があるため、ペダル操作肢の交換には注意が必要である。
  • 渡邊 志保美, 山嵜 未音, 坂 直樹, 廣澤 全紀, 武原 格, 一杉 正仁
    2021 年 20 巻 2 号 p. 30-36
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/24
    ジャーナル オープンアクセス
    安全運転においては、自動車運転中に遭遇する危険な状況を正しく認識し、これを回避する能力が求められる。脳損傷者を対象に危険予知トレーニングを実施し、脳損傷者に対する安全運転支援の一方法となり得るかを検討した。2017年4月〜2018年3月および2019年4月〜2020年3月の期間に東京都リハビリテーション病院に入院または外来通院した脳損傷者20人(男性19人、女性1人、年齢49.7±9.6歳)および健常者23人(男性13人、女性10人、年齢48.1±16.6歳)を対象とした。脳損傷者の原疾患は脳梗塞が8人、脳出血が6人、くも膜下出血が2人、頭部外傷が4人であり、発症から危険予知トレーニング開始までの期間では60日以内が8人、61〜180日以内が10人、365日以上が2人であった。一般社団法人日本自動車連盟(以下、JAF)の危険予知トレーニングを10問抜粋して、約1カ月の期間をあけて2回実施した。10問の解答はJAFが明示する解答例を基に2人以上の運転免許証を保有する作業療法士が正答を1点、誤答を0点として採点した。また脳損傷者群・健常者群ともに年齢、運転経験年数、運転頻度、運転目的について情報収集した。脳損傷者群の危険予知トレーニングの点数は1回目の中央値が4.0(3〜5)点、2回目の中央値は7.0(5.75〜8.25)点となり、健常者群の危険予知トレーニングの点数は1回目の中央値が5.0(2.5〜6.5)点、2回目の中央値が9(6〜10)点となり、それぞれ有意に上昇していた。1回目および2回目の得点それぞれにおいて、健常者群と脳損傷者群との間で有意差はなかった。本研究では脳損傷者においても健常者と同じように自動車運転時の危険場面についての理解が深まる可能性が示唆された。本研究で施行したJAFの危険予知トレーニングは、運転再開に向けてリハビリテーションを行っている脳損傷者の安全運転支援として有用であると考える。
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