日本交通科学学会誌
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脳損傷者に対する「実写版危険予知トレーニング」の有用性についての検討
渡邊 志保美山嵜 未音坂 直樹廣澤 全紀武原 格一杉 正仁
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2021 年 20 巻 2 号 p. 30-36

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抄録

安全運転においては、自動車運転中に遭遇する危険な状況を正しく認識し、これを回避する能力が求められる。脳損傷者を対象に危険予知トレーニングを実施し、脳損傷者に対する安全運転支援の一方法となり得るかを検討した。2017年4月〜2018年3月および2019年4月〜2020年3月の期間に東京都リハビリテーション病院に入院または外来通院した脳損傷者20人(男性19人、女性1人、年齢49.7±9.6歳)および健常者23人(男性13人、女性10人、年齢48.1±16.6歳)を対象とした。脳損傷者の原疾患は脳梗塞が8人、脳出血が6人、くも膜下出血が2人、頭部外傷が4人であり、発症から危険予知トレーニング開始までの期間では60日以内が8人、61〜180日以内が10人、365日以上が2人であった。一般社団法人日本自動車連盟(以下、JAF)の危険予知トレーニングを10問抜粋して、約1カ月の期間をあけて2回実施した。10問の解答はJAFが明示する解答例を基に2人以上の運転免許証を保有する作業療法士が正答を1点、誤答を0点として採点した。また脳損傷者群・健常者群ともに年齢、運転経験年数、運転頻度、運転目的について情報収集した。脳損傷者群の危険予知トレーニングの点数は1回目の中央値が4.0(3〜5)点、2回目の中央値は7.0(5.75〜8.25)点となり、健常者群の危険予知トレーニングの点数は1回目の中央値が5.0(2.5〜6.5)点、2回目の中央値が9(6〜10)点となり、それぞれ有意に上昇していた。1回目および2回目の得点それぞれにおいて、健常者群と脳損傷者群との間で有意差はなかった。本研究では脳損傷者においても健常者と同じように自動車運転時の危険場面についての理解が深まる可能性が示唆された。本研究で施行したJAFの危険予知トレーニングは、運転再開に向けてリハビリテーションを行っている脳損傷者の安全運転支援として有用であると考える。

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© 2021 一般社団法人 日本交通科学学会
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