日本交通科学学会誌
Online ISSN : 2433-4545
Print ISSN : 2188-3874
運転中の心臓突然死に対する法医解剖例の検討
─救命可能性について─
東條 美紗竹田 有沙高相 真鈴中村 磨美一杉 正仁
著者情報
ジャーナル フリー

2021 年 21 巻 1 号 p. 40-46

詳細
抄録
車両運転中の心臓突然死事例を解析し、自動車運転中に突然発症する致死的心疾患に対する救命可能性について検討した。滋賀医科大学医学部社会医学講座法医学部門で2015年1月〜2021年1月に行われた剖検例から、屋外で発生した心臓突然死例を抽出し、運転群と非運転群に大別した。対象は35例であり、平均年齢は63.9歳であった。運転群が20例、非運転群が15例で、年齢、男女比、BMI(body mass index)、生活習慣病と心疾患の既往頻度に有意差は認めなかった。運転群のうち19例(95%)は運転者が意識のない状態で発見され、救急隊接触時は全例心肺停止状態であった。ハンドル操作ができた例はなく、ブレーキ操作ができたのは1例(5.0%)であった。運転群では非運転群に比べて有意に目撃の頻度が高く(50% vs 13%、p=0.03)、発生から発見までの時間も短かった。発生から救急搬送までの時間も、運転群で短かった。体調起因性事故では、運転者が疾病により重篤な状態に陥ることがあり、事故の程度にかかわらず、運転者が急変した際の迅速な救助が求められる。自動車運転中の心原性心肺停止例では、発生直後にバイスタンダーによる救命措置が積極的に行われれば、死者の低減につながると考える。高齢運転者が増えつつあるなかで、運転中に体調変化をきたした運転者自身を救命する対策および体調変化後の事故発生を防ぐ対策の両者が求められると考えられた。本検討結果は、今後の自動車運転者の予後を改善するうえで有用と考える。
著者関連情報
© 2021 一般社団法人 日本交通科学学会
前の記事 次の記事
feedback
Top