日本交通科学学会誌
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自動車ペダル踏み間違い発生時の生体運動解析
藤田 和樹小林 康孝川端 香一杉 正仁
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2022 年 22 巻 1 号 p. 14-25

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抄録

自動車ペダル踏み間違いの発生率は75歳以上で明らかに増加し、高齢運転者による死亡事故数が減少しない要因の一つである。高齢者の踏み間違いの発生要因には、認知機能のみならず運動制御異常の影響が示唆される。本研究の目的は、実際に踏み間違いが発生した際の生体運動を詳細に解析し、事故原因解明の一助とすることである。日ごろから運転をしている後期高齢者10人と若年者11人を対象とした。緊急ブレーキ操作の測定には、踏み替え実験用ペダルを使用し、眼前に設置した三色LEDライトを20~30秒間隔で無作為に点灯させ、赤色で急速な踏み替えとした。測定は5分間連続で、計3セット施行した。動画上から踏み間違いが発生した3例の操作を抽出し、下肢の筋活動と関節運動を解析した。Case 1では、ヒラメ筋の活動性が不適切なタイミングで増加し、アクセルの踏み込みが認められた。Case 2では、アクセルリリース後に前脛骨筋とヒラメ筋が同期して収縮と弛緩を繰り返し、足先の揺れが認められた。Case 3では、股関節の可動範囲が狭く、両ペダルの踏み込みが認められた。いずれの高齢者においても、関節運動、筋電図ともに異常波形が認められたため、運動制御能の低下が踏み間違い発生に関連した可能性がある。高齢者では認知機能にかかわらず神経系や筋の老化によって無意識的に踏み間違いが発生する可能性がある。

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© 2022 一般社団法人 日本交通科学学会
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