日本交通科学学会誌
Online ISSN : 2433-4545
Print ISSN : 2188-3874
22 巻, 1 号
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  • 馬塲 美年子, 一杉 正仁
    2022 年 22 巻 1 号 p. 3-13
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2023/09/25
    ジャーナル オープンアクセス
    「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」施行(2014年)後に発生した睡眠障害がある運転者の自動車事故事例について調査した。さらに新法施行前の状況との比較を行い、現況と防止策について考察した。対象9例のうち、睡眠時無呼吸症候群(以下、SAS)の運転者がもっとも多く7人、特発性過眠症、概日リズム睡眠障害が各1人であった。運転者の職業は、職業運転者が7人、農業、動物病院勤務が各1人であった。刑事処分が明らかな6例についてみると、有罪5例、不起訴1例でいずれも過失運転致死傷被疑事例であった。新法施行により、重度の眠気の症状を呈する睡眠障害がある運転者による事故に対して、要件を満たせば危険運転致死傷が適用されることになった。しかし、新法施行後も睡眠障害に起因した事故が危険運転で起訴された事例はみられず、施行前後で傾向に変化はなかった。睡眠障害の症状により運転に支障が生じるおそれがあることを認識して運転していたという故意の立証、睡眠障害による眠気で正常な運転が困難な状態に陥ったという事実および事故との因果関係の立証がたいへん難しいため、危険運転での起訴が困難であると考えられた。しかし、運転者には眠気を感じた時点で車を停止する義務があるため、睡眠障害と事故の因果関係が認められても認められなくても、過失運転で厳罰が下されるケースが多い。また、新法施行の前も後も、職業運転者による事故が過半数を占めていた。睡眠障害(とくにSAS)のリスクが高いといわれている職業運転者に対して、スクリーニング検査の実施率は増加しており、近年、SASや睡眠障害の事故リスクについての認知度は上がってきているものの、SASの推計患者数500万人に対して受療者は50万人と報告されており、潜在的な患者がたいへん多い。また検査後の事業者によるフォローがまだ十分ではないと考えられ、フォローの徹底、情報の共有が必要と考えられた。
  • 藤田 和樹, 小林 康孝, 川端 香, 一杉 正仁
    2022 年 22 巻 1 号 p. 14-25
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2023/09/25
    ジャーナル オープンアクセス
    自動車ペダル踏み間違いの発生率は75歳以上で明らかに増加し、高齢運転者による死亡事故数が減少しない要因の一つである。高齢者の踏み間違いの発生要因には、認知機能のみならず運動制御異常の影響が示唆される。本研究の目的は、実際に踏み間違いが発生した際の生体運動を詳細に解析し、事故原因解明の一助とすることである。日ごろから運転をしている後期高齢者10人と若年者11人を対象とした。緊急ブレーキ操作の測定には、踏み替え実験用ペダルを使用し、眼前に設置した三色LEDライトを20~30秒間隔で無作為に点灯させ、赤色で急速な踏み替えとした。測定は5分間連続で、計3セット施行した。動画上から踏み間違いが発生した3例の操作を抽出し、下肢の筋活動と関節運動を解析した。Case 1では、ヒラメ筋の活動性が不適切なタイミングで増加し、アクセルの踏み込みが認められた。Case 2では、アクセルリリース後に前脛骨筋とヒラメ筋が同期して収縮と弛緩を繰り返し、足先の揺れが認められた。Case 3では、股関節の可動範囲が狭く、両ペダルの踏み込みが認められた。いずれの高齢者においても、関節運動、筋電図ともに異常波形が認められたため、運動制御能の低下が踏み間違い発生に関連した可能性がある。高齢者では認知機能にかかわらず神経系や筋の老化によって無意識的に踏み間違いが発生する可能性がある。
  • 川端 香, 小林 康孝, 藤田 和樹, 渡辺 容子
    2022 年 22 巻 1 号 p. 26-31
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2023/09/25
    ジャーナル オープンアクセス
    自動車運転時、ドライバーの道徳的感情が運転行動に影響を与える。道徳的感情とは、「罪悪感」や「羞恥心」に代表される感情のことを指し、社会的規範を遵守するうえで重要な役割を果たす。本研究の目的は、ドライバーの道徳的感情と運転行動の関連について検討することである。健常ドライバー28名を対象とし、道徳的感情に関するアンケート調査と運転行動評価を実施した。道徳的感情に関するアンケートには50項目からなる犯罪のシナリオを用い、対象者はシナリオを読み、罪の大きさを評価した。次に、ドライビングシミュレーターを用いて運転行動評価を実施した。評価項目は、①急ブレーキの回数、②ヒヤリハットの回数、③事故の回数、④速度超過時の平均速度、⑤速度超過割合とした。アンケート結果より、対象者を低モラル群、過剰モラル群、対照群の3群に分類し、3群間の運転行動評価項目について統計学的に比較検討した。その結果、急ブレーキの回数、ヒヤリハットの回数、事故の回数、速度超過時の平均速度について、3群間に有意差は認められなかった。過剰モラル群は、低モラル群より有意に速度超過割合が高かった。道徳的感情が過剰傾向にあるドライバーは、違反や事故につながる運転行動を起こしやすいパーソナリティ要因をもっている可能性が考えられる。ただし、低モラル群、過剰モラル群ともに、対照群と有意差を認めなかったことから、道徳的感情の程度が運転行動に与える影響についてさらなる検証が必要である。
  • 石井 亘, 神鳥 研二, 宮国 道太郎, 一杉 正仁
    2022 年 22 巻 1 号 p. 32-37
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2023/09/25
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】重症外傷を扱う施設での診療の現状を明らかにし質の向上を図るため、2003年に日本外傷データバンク(Japan Trauma Data Bank;JTDB)の登録が開始された。JTDBの目的は、重症外傷のデータを集積および解析することで、重症外傷を扱う施設での診療の現状を明らかにし、診療の質の向上を図ることにある。本研究の目的は、JTDBの利用状況を確認することで、現状を把握し今後のあり方について検討することである。【対象】2005年1月~2021年8月までにPubMed®に公開されている学術論文および医学中央雑誌、JTDBから公表されている業績文献リストより抽出した。【結果】和文誌への掲載は2021年8月までに35編なされており、英文誌には120編公表されていた。和文誌への掲載は近年減少しているが、英文誌への公表は年々増加していた。検討項目別件数では、損傷形態から検討した論文が52編(43.3%)、患者背景21編(17.5%)と続いた。JTDBを基に予測モデルなどを提起している論文が6編認められた。また、国内外の学術集会による発表は200以上であった。【考察】外傷の予防や重症度低減を考えるうえでは、警察が収集した事故データとJTDBのデータをひもづけできるようなシステム構築が必要と考える。さまざまなデータをリンクさせることで、より詳細な検討ができるとともに、医療系の研究だけでなく工学系の研究や医療経済に関する研究などにも発展すると考えられ、JTDBの利用価値も増加していくと考えられる。
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