抄録
症例は60歳代の男性で、3年前より非代償性肝硬変、高アンモニア血症、食道静脈瘤と診断され近医通院中であった。男性は、薬物治療を受け主治医より自動車運転を禁止されていたものの、独り暮らしで、かつ個人タクシー運転者であり、自動車運転を継続していた。某日、男性は目的地と反対方向に進行していたが、対向車線に逸脱して正面衝突事故を起こし、下肢の挫創、左脛骨および腓骨の粉砕骨折を負った。受傷部位からの多量出血による出血性ショックで、翌日に死亡した。剖検では、進行した非代償性肝硬変および脾腫を認め、血液検査では、アンモニアの上昇を認めた。目的地と反対方向へ進行したことや、対向車線へ逸脱したことを考慮すると、男性は肝性脳症により交通事故を引き起こしたと考えた。進行した肝硬変に起因した交通死亡事故例の報告はまれであり肝硬変が交通事故の原因になり得ることについては、広く認識されていない。本例を通して、肝硬変患者における自動車運転能力の確認と適切な患者指導の重要性が示唆された。また、患者のアドヒアランスを良好に保つこと、家族とともに適切な助言を行うことが健康起因事故を予防するうえで重要と考えた。