2016 年 32 巻 2 号 p. 100-107
抄録 口腔の機能を維持・向上することで生活や人生を豊かで安全なものとするためには, 口腔保健の維持増進が必須である. この目的の達成のためには全人的な総合歯科診療を理解・習得することが必須であり, その育成手段として教育資源 (シナリオベースの症例模型) を開発した. 本教材は, 医療面接シナリオ, 口腔内写真, エックス線写真, 歯周検査データとこれらデータに準拠した実習用顎模型から構成される. 学習者は以下のステップを段階的に学習することにより, 予防を含めた全人的包括診療を意識した歯科臨床の流れを理解できる.
ステップ1 : 医療面接シナリオから 「患者の病」 を理解し, 顎模型による口腔内診査および検査所見の分析を行うことで問題点を整理し, プロブレムマップを作成.
ステップ2 : プロブレムマップの活用により, 治療の成功と再発防止に必要な患者教育について考察.
ステップ3 : 総合治療計画の立案と治療のシミュレーション実習.
今回, 本学歯学部3年次生を対象にステップ1の実習導入を試みたところ, 多くの学生から全人的な総合歯科診療を理解し, 臨床実習への準備として有用であるとの回答を得た. 1つの教育資源を用いて学年ごとにステップアップする到達目標を与えることで, 臨床推論能力・総合診療計画立案能力の向上が達成され, 国民の健康に貢献できるオーラルフィジシャンの養成が期待できるものと結論した.