2020 年 36 巻 2 号 p. 71-80
抄録 歯科における臨床技能教育は, 技術職的要素を多分に含むことやさまざまな材料や機器を適切に扱う必要があることなどから簡単ではなく, 現状で歯科臨床技能の効果的な学修方法が確立しているとはいえない. 本研究は, この課題を解決するため, 身体動作計測の手法を用いて, 診療姿勢や診療動作を定量的に解析することを目的とした.
対象は, 歯科医師群として新潟大学医歯学総合病院勤務の男性歯科医師7名, 学生群として新潟大学歯学部歯学科6年男子学生9名の合計16名とした. 光学式モーションキャプチャ・システムを用いて, タービンハンドピースにダイヤモンドポイントを装着使用した場合のⅠ級インレー形成時の動作解析を行った.
歯科医師と学生では窩洞外形に相当するダイヤモンドポイント先端の軌跡は明らかに異なり, 切削に掛かった時間は歯科医師が明らかに短かった. 歯科医師のほうが切削中の手首, 肘の関節の角度の変化が少なく, 頭部, 頸部に比べて胸部が人工歯から遠いため, 切削中姿勢や上肢を安定させ, 一方で学生は覗き込むような姿勢で, 手首や肘でエアタービンをコントロールしていることがわかった.
本研究において, 動作解析により, Ⅰ級インレー窩洞形成時のエアタービン, 上肢, 体幹の客観的評価を行うことができ, 臨床的示唆が得られた.