口腔衛生学会雑誌
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解糖系酵素におよぼすフッ化物の影響
第一部enolase
矢崎 武
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1970 年 20 巻 1 号 p. 68-83

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抄録

精製酵素およびマウス筋homogenate上清を使用しin vivoで, またin vivoではマウスにFを含む水を1週間飲ませ, Fによる筋enolaseに対する影響を検索した。その結果in vitroではhomogenate粗酵素に強い抑制を認め, 特にFを含む粗酵素で酵素反応をスタートさせた場合非常に強い阻害を認めた (50%抑制率0.5mMF)。これは今までのWarburgらの考え方だけでは理解できなかつたが, 2つの阻害型を考えることによつて解釈された。一つは不完全阻害 (可逆性), もう一つはH-factor (homogenate factor) の存在による完全阻害 (不可逆あるいは難可逆性) である。H-factorはhomogenate粗酵素の特性を成すもので, その働きはhomogenateの蛋白を主とする成分がその中心となり, さらにMg, HPO4, など各種イオンとによる総合作用と考えられた。またH-factorの働きの中にHPO4など陰イオンによる活性化促進作用も認めた。in vivoの実験では, controlに対し100および400ppm群で有意の低下を認めた。これは一週間の高濃度急性毒性であり, 必ずしもFとenolaseによる特異的反応の結果のみとは結論し得ない。しかし考えねばならないことは, H-factorの関与する阻害が一般に生体組織内で起り得るものと推測され, さらにこの阻害に時間的増強が認められたことから, 微量Fの長期間投与の場合の酵素系に対する影響はさらに追試, 検討する必要性があるという点である。

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