抄録
肘部管症候群に対し当院にて皮下前方神経移動術を施行した32例32肘に対し,指腹ピンチ力の経時的変化について調査した.男性24例,女性8例であり,年齢は15歳~87歳(平均58.6 ± 16.9歳)であった.評価項目は,母指-示指指腹ピンチ力(TI),母指-中指指腹ピンチ力(TM),母指-環指指腹ピンチ力(TR),母指-小指指腹ピンチ力(TL)とし,術前,術後3か月,術後6か月,術後12か月にそれぞれ測定を行った.TR,TLは術後6か月の時点で有意に改善し,深指屈筋(Ⅳ・Ⅴ)の筋力回復が大きく関与していると考えられ,また第3・4虫様筋,第2・3掌側骨間筋の筋力回復も影響している可能性がある.これに対して,TIおよびTMの回復には術後12か月以上を要することが示唆され,短母指屈筋(深頭),母指内転筋,第1・2背側骨間筋筋力の回復遅延が関与していると推察された.