2023 年 15 巻 1 号 p. 47-66
古典的な描画の発達研究は主に描かれた図像の形態の変化に着目し,意味のないなぐりがきからシンボルへ,単なる運動の痕跡から透視図法的なリアリズムへという図式を前提にしていた.本研究では描かれた形態やシンボルの現れを問題とせず,描画の発達に関わる根本的な問いとして,面の二重性の知覚がどのように進むのかを検討した.1 名の幼児の家庭での描画行為を縦断的に観察し,痕跡を残す行為において,描画面の性質が行為の調整に影響を与える場面に焦点を当てた.描き始め,描画面のずれに対する調整,描画面からはみ出した時,描画を停止し引いて見る時,描画を停止し描画面にシールを貼る行動を観察した.事例に基づき,描画面それ自体,物としての知覚は,画具と面との接触によりもたらされること,それと同時に表示としての不変項も知覚され始めていることについて考察した.