抄録
本論文の目的は,女性の化粧行為の形成と文化移行による変容について,その過程とダイナミズムを捉えることである。調査では,定常的に化粧行為をする/しない選択をおこなった日本と米国の大学に通う女性 9 名の調査協力者に対して,半構造化インタビューを実施した。インタビューによって得られた調査協力者の化粧行為にまつわる語りに対し,文化心理学の記述モデルである複線径路・等至性モデル(Trajectory and Equifinality Model:TEM)を用いて,時系列に沿ったモデルを作成した。さらに,個人の選択を方向づける社会・文化的影響についての分析をおこなった。結果として,①女性の化粧を促進する社会・文化的影響が強い日本では,化粧行為形成に至るまでに,「受身的化粧」「自発的化粧」という 2 つの種類の経験をすること。②文化的越境を通じて異文化に身をおくことは自文化で培われた行為を相対化して見なおし,新たな習慣の形成と変容のための契機となり得ることが明らかになった。