2016 年 9 巻 1 号 p. 67-69
第 18 回知覚と行為に関する国際会議の参加報告として,本稿にて発表した研究を紹介する.この研究では,人間の視覚性運動制御に予期による行為が利用されているかを調査した.地面に対して水平なレール上を転がる鉄球を制御する課題を用いて実験を行った.制御システムには被験者の操作が反映されるまでに遅延を設定し,視覚情報の遅れを実現した.計測した操作と鉄球の位置との相互相関解析から,操作が鉄球の運動に追従するフィードバック制御であることがわかった.そして,制御対象に対する操作の遅れはシステムの遅延に依存せず一定であった.被験者は操作を行う中で,システムに遅延があることを認識していた.しかし,相関解析の結果に被験者が鉄球の運動を予期して鉄球の運動よりも先に操作を行う傾向は見られなかった.このことは人間の視覚性運動制御が軌道計算の予期によるフィードフォワード制御ではないこと示唆し,運動制御が制御モデルで与えられるような認識‐運動過程ではなく,運動調整に対する生態心理学的なアプローチを支持する結果である.