2024 年 100 巻 p. 25-36
本稿の目的は,『社会科研究』の第51号から第60号(1999年11月~2004年3月刊行)に掲載された論文をレビューし,この時期の研究の特質とその今日的意義を探ることである。本稿では,当時の社会科教育学研究における研究的枠組みを示した,森分孝治(1999)『社会科研究学研究-方法論アプローチ入門-』明治図書,に基づいて,方法論的な視点から研究の分類を行うことで,まずは量的な視点から,この期間における研究の概要を明らかにした。それを踏まえて,対象期間に研究が集中していた分野に焦点化し,質的な視点から,特徴的な研究の目的・内容・方法について分析することで,対象期間の研究がその後の社会科教育学研究にどのような影響を与えたのか,その今日的意義について考察した。対象期間の研究のほとんどは,「事実研究」と「理論研究」になっており,社会科の教育課程や教材・授業を「つくり」,「分析」することが,社会科教育学研究として意義ある研究と捉えられていた。さらに,ほとんどの研究が,より望ましい社会科教育の事実をつくる,あるいはそうした事実を創造する理論を構築することを主眼に,具体的な「授業の事実」を示そうとするものになっていた。対象時期の研究において示された社会科教育の理念や規範は,今日大勢を占める実証的で経験的な研究においても研究の基盤(前提)とされており,そのことは社会科教育学研究の存在価値ともなっている。社会科教育学研究がその存在価値を明確にした時期として,対象時期の研究史的意義は大きい。