社会科研究
Online ISSN : 2432-9142
Print ISSN : 0289-856X
ISSN-L : 0289-856X
批判的教科書活用論に基づく社会科授業作りの方法 : 教育内容開発研究に取り組む教師文化の醸成(シンポジウム特集)
藤瀬 泰司
著者情報
ジャーナル フリー

2014 年 80 巻 p. 21-32

詳細
抄録

本研究の目的は,批判的教科書活用論という教科書活用法を提起することによって,教育内容開発研究に取り組む教師文化を醸成することと,その手立てを具体的に示すことである。批判的教科書活用論とは,教科書記述が多様な解釈の一つに過ぎない相対的真理であることや,社会の現実を生産・変革する政治的実践であることを学習させることによって,その記述が中立公平な絶対的真理ではないことを子どもに理解させる社会科授業作りの方法である。本研究では,この授業作りの方法に基づいて,日中戦争が長期化した理由を説明する教科書記述が,多様な歴史解釈の一つに過ぎない相対的真理であることを学習させる中学校歴史学習の授業モデルを開発した。本研究の成果は,教科書の使用義務があるという状況の下で教育内容開発研究を普及・拡大する方策を示したことにある。教育内容開発研究は,権威や常識に盲従しない国家・社会の形成者を育成する上で極めて有効な社会科授業作りの方法である。しかしながら,この授業作りの方法は,教科書とは異なる教育内容を開発して授業を作る方法であるため,教科書の使用義務がある我が国では普及・拡大させることが難しい。したがって,このような状況の下で教育内容開発研究の普及・拡大を図ろうとすれば,教科書を教育内容にするだけでは,その記述を中立公平な絶対的真理として教えることしかできず,国家・社会の形成者の育成が難しいことを教師に自覚させる必要がある。本研究では,教科書を教育内容にするだけでは国家・社会の形成者の育成が難しいことを自覚させることによって,教育内容開発研究の必要性を理解させる社会科授業作りの方法を提起した。

著者関連情報
© 2014 全国社会科教育学会
前の記事 次の記事
feedback
Top