社会科研究
Online ISSN : 2432-9142
Print ISSN : 0289-856X
ISSN-L : 0289-856X
教職課程入門期における社会科教員志望学生の社会科観・授業構成力の形成過程とその特質 ― 被教育体験と大学カリキュラムの関係に注目して―
大坂 遊
著者情報
ジャーナル フリー

2016 年 85 巻 p. 49-60

詳細
抄録

 本稿では,「生徒」から「教師」への移行期にある学部1年次の社会科教員志望学生が,被教育体験や大学カリキュラムの影響を受けながら,どのように社会科観や授業構成力を形成することができるのかを明らかにする。そのために,国立X大学の学部1年次生に対する調査を実施し,①学生の社会科観と授業プランの関係,②被教育体験と大学カリキュラムが社会科観と授業プランに与える影響の2点を検討した。

 1年次の学生は教科教育の講義から様々な社会科教育の目標に触れ,被教育体験に根ざした自己の社会科観を説明することができていた。さらに,大学カリキュラムが示唆する「教科指導のポイント」をくみ取り,授業プラン作りに反映させることができていた。その一方,学生は被教育体験期に形成した授業スタイルから脱却できず,完全に自立的な授業を構想するまでには至らなかった。

 これまでの研究では,大学での学びが自己の社会科観を模索しようとする「覚醒」作用と,被教育体験に根ざした授業スタイルや信念を肯定し回帰する「洗い流し」作用が個別に議論されてきた。本研究は,教師志望学生がそれらの作用を同時並行的に経験し,両者の間で葛藤しながら社会科観・授業構成力を形成していること,2つの作用を統合した学生理解にもとづく教員養成のあり方が求められていることを示唆している。

著者関連情報
© 2016 全国社会科教育学会
前の記事 次の記事
feedback
Top