社会科研究
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「困難な歴史(Difficult History)」を どのように探究すべきか ―「批判的社会文化的アプローチ」による歴史授業デザインの変革―
小野 創太
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2021 年 95 巻 p. 25-36

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抄録

 本稿の目的は,歴史認識をめぐる対立や論争が先鋭化する現代社会において,生徒が「困難な歴史(Difficult History)」を探究する授業をどのようにデザインできるかについて,「批判的社会文化的アプローチ」の観点から論じることである。本稿では,(1)「困難な歴史」を「困難な」ものにする社会文化的文脈に対応する目指すべき歴史教育の理論的枠組みとしての「批判的社会文化的アプローチ」,(2)「批判的社会文化的アプローチ」に基づく授業デザイン原理,(3)実際のデザイン事例の特質と課題,(4)今後求められる歴史授業デザイン原理の変革の方向性,の4点を明らかにした。

 本稿の結論は二点挙げられる。第一に,「批判的社会文化的アプローチ」に基づく授業デザインの原理が,人道主義を基調とした「社会文化的アプローチ」と「歴史的思考」の接続にあるということである。これまで,前者は生徒の歴史認識や歴史理解を明らかにするための実証研究の理論的枠組みとして,後者は生徒の認知的な発達を促す概念を中心として研究がなされてきたが,「困難な歴史」を探究する上では双方が組み合わされることが求められるということである。第二に,「困難な歴史」を探究するための授業デザインを構想するためには,既存の単元やカリキュラムを規範・原理が反映されているものと捉えるだけでなく,それを「変革」する視点が求められるということである。今後は,開発・実践されてきた単元やカリキュラムから日本の社会科教育研究における新規性を論証するのみでなく,具体的な実践からの不断の問い直しも求められる。

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