社会科研究
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授業実践研究の視点からの新社会科期の再評価 ―Elliott Seifによる質的研究方法論の導入―
渡邊 大貴
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2022 年 96 巻 p. 25-36

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抄録

  本稿の目的は,新社会科における授業実践研究の実相と当時の研究者からの評価を明らかにするとともに,新社会科期における質的な授業実践研究の萌芽の可能性を示すことである。このように授業実践研究の事例から新社会科期を再照射することにより,この時期の米国を対象とした社会科教育研究を,授業実践研究やその方法論に着目して再検討していく必要性も提起する。これまで,新社会科の課題として「実践と理論の乖離」が指摘されてきた。しかしながら,日本の先行研究では,当時の研究者による授業実践研究を中心的な検討課題としてこなかった。そこで本稿では,新社会科における授業実践研究の事例としてワシントン大学初等社会科学プロジェクトにおけるElliott Seif による研究を取り上げ分析を行った。

 その結果,次のことが明らかとなった。新社会科では,これまで着目されたような,学問的・社会的要請に基づく“教室の外側”からの授業理論がつくられた一方で,Seif による研究からは,実践を踏まえた質的な授業実践研究によって“教室の内側”から実践に依拠した理論と実践を理論化する研究方法論が示された。具体的には,社会的・倫理的な論争問題の明確化に関わる思考に関する質的な授業実践研究を通して,教師の実践的な判断や児童が教室にもちこむ価値観も含み込んだ教室の状況の複雑性を反映した概念や仮説が生成されていた。また,Seif の研究は,当時の米国の研究者から,社会科の授業実践研究(research on teaching social studies)に質的な研究方法論を導入した先駆的な研究として評価されていた。このように,新社会科には再評価に値する「実践と理論の乖離」を克服し得る実践に依拠した理論や質的な授業実践研究の方法論もが内在していたといえる。本稿では,新社会科期の1960-70年代における,質的な社会科授業実践研究の萌芽の可能性を示した。このことは,授業実践研究やその方法論に着目して,この時期の米国を対象とした社会科教育研究を再検討していく必要性を示唆するものである。

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© 2022 全国社会科教育学会
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