2020 年 20 巻 01 号 p. 304-319
外国語教育において,コミュニケーション能力の育成は最も重要な目標の一つであり,実際に外国語を聞いたり読んだりしたことを理解したり,自分が伝えたいことを話したりするためには,文構造の知識が欠かせない。2020 年施行の小学校学習指導要領においても,文構造の知識や,疑問文・否定文も含めた文に関する知識,及びそれを活用する技能の必要性に言及している。しかし,日本の小学生を対象にした英語の文構造や文の知識に関する包括的な調査はほとんどされておらず,知識の測定方法も確立されていない。本研究では,小学生に内在する英語の文構造や疑問文・否定文も含めた文に関する知識を測定する方法として,教育実践でも比較的再現しやすい「模倣発話課題」と「文法性判断課題」を小学5 年生60 名に実施し,各課題の結果に影響を与える要因を調査した。具体的には,課題文の音節数・文法性/非文法性(文法性判断課題のみ)・統語処理のしやすさと,学習者の語彙サイズを固定効果に,参加者と項目を変量効果に投入して,一般化線形混合モデルで分析した。その結果,(1) 両課題とも統語処理のしやすさの影響がなかったことから,課題の成否には,文を構成するための統語規則ではなく,語の線形順序や語彙的な知識が反映されている可能性が高いこと,(2) 音節数の影響は模倣発話課題にのみ影響があったことから,2 つの課題が異なる知識や能力を測定していること,(3) 文法性判断課題では,肯定文・否定文・疑問文といった文の形態や統語処理のしやすさに関わらず,文法性よりも非文法性の判断の方が難しいことが確認された。