抄録
国立公園における外来植物の管理策の実装には観光客の協力が欠かせない。富士山では登山道入口に,観光客の靴から植物の種子を取り除くための防除マットが設置されている。より多くの観光客に防除マットの使用を促すため,効果的な介入方法の検討が課題となっている。本研究は,観光客の防除マットの使用行動と,今後防除マットを使用する行動意図に影響を与える心理的要因を明らかにすることを目的とした。アンケート調査から,(i) 行動に対する態度,(ii) 規範意識,(iii) 行動の容易さ,(iv) 場への愛着,(v) リスク認識,(vi) 防除マットの役割に関する知識,の6つの要因の影響を調べた。その結果,防除マットの役割に関する知識と規範意識が行動と正の相関にあることが示された。防除マットの役割に関する情報提供や規範意識に訴える介入は,防除マットの使用行動を促すと考えられる。また,今後の行動意図に対しては,行動の容易さ,リスク認識,行動に対する態度が影響していた。行動にかかる時間的・心理的コストを 低減する戦略や,外来植物のリスクと防除マットの意義を強調して伝えることが,今後,観光客の防除マットの使用行動を促す可能性がある。