抄録
地掻きや除伐といった林内施業が外生菌根菌の子実体発生量に及ぼす影響については正負両方の効果が報告されていることから、アカマツ天然林内に設置した試験地に優占して発生したアミタケを対象に、林内施業後の子実体の発生状況とジェネット分布の経年変化を調査し、施業がアミタケの発生動態に及ぼす影響について検討をおこなってきた。 遺伝構造の解析方法には、ISSR多型解析法、および、菌類の持つ体細胞不和合性(somatic incompatibility)を利用した対峙培養の2種類を用いてきたが、アミタケについても数種類のSSRマーカーを開発することができたことから、本研究では、新たに開発したSSRマーカーを用い、試験地に発生したアミタケについてジェネットの再解析を行い、上記2手法による解析結果との比較を併せて行うことを目的とした。 その結果、いずれの年、いずれの処理区においても、ヘテロ接合度は観察値の方が期待値よりも高く、過去において胞子散布による繁殖を盛んに行っていたことを示唆するものと考えられた。その一方で、いずれの処理区においても、毎年発生位置を大きく変えながらも、同一の遺伝子型の子実体が4年にわたって優占して発生していたことから、菌糸の成長によって土中に広く分布した菌糸マット中から毎年ランダムに子実体発生を行っている可能性も考えられ、今後、地下部におけるアミタケの菌根とそのジェネット分布についての調査を行っていく必要があるものと考えられた。 調査期間を通じて大きく優占していた各ジェネットについては、3つの手法でほぼ完全に一致する結果が得られた。しかし、対峙培養やISSR多型解析で同一のジェネットと判定された菌株でも、本研究での解析結果では異なるジェネットに属すると判定されるものも少数ながら存在した。それらは、Sb-CA1, CA4の各遺伝子座でホモ接合となっている場合が多く、ISSR多型が優性マーカーであることに由来する識別能力の限界である可能性が考えられた。