抄録
安全風土とは、組織成員を安全の配慮や安全行動に導く組織環境のことである。原子力発電所の安全性を高めるためには、組織を管理する人たちが、組織の安全風土の現状を把握し、安全風土の向上に努めることが極めて重要である。本研究では、3 つの原子力発電所で、課長クラス以下の技術系従業員を対象に、継続的に実施した 4 回の質問紙調査を通して、安全風土の測定尺度を構成するとともに、従業員の層別評定の特徴や、安全風土とトラブル件数の関係を分析した。測定尺度は、2003 年度の調査データを因子分析することにより6 因子を抽出し、各因子と相関が高い項目を5 項目ずつ選定することにより構成した。6 つの因子は、「組織の安全姿勢」、「直属上司の姿勢」、「安全の職場内啓発」、「安全配慮行動」、「モラル」、「知識・技能の自信」と命名した。
4 回にわたる継続調査の結果、評定結果に一貫して以下の特徴が認められた。①職位を一般従業員と役職者に分けて比較をすると、すべての測定尺度で役職者の評定値は、一般従業員の評定値より高かった。②一般従業員を年齢により29 歳以下、30 歳代、40 歳代、50 歳以上の4世代に層別すると、「知識・技能の自信」を除く 5 因子の測定尺度は、世代が高くなるほど評定値が低下し、「知識・技能の自信」は、世代が高くなるほど評定値も高かった。
安全性の客観的指標であるトラブル件数と安全風土の関係を分析した。職位によって安全風土の評定値が異なることから一般従業員と役職者に分けて、トラブル件数との関係を検討した。その結果、「組織の安全姿勢」、「直属上司の姿勢」、「安全の職場内啓発」、「安全配慮行動」、「モラル」の5つの評定値は、両職位において、トラブル件数と負の相関関係が見出された(安全風土が高いほど発電所のトラブル件数は少なかった)。その内、統計的に有意となったのは、一般従業員の評定においては「組織の安全姿勢」だけであったが、役職者の評定においては、5 つの評定値すべてが統計的に有意であった。一方「知識・技能の自信」の評定値は、一般従業員も役職者もトラブル件数と統計的に有意な関係が認められなかった。
以上から、安全風土の測定尺度としては、「知識・技能の自信」を除く、「組織の安全姿勢」、「直属上司の姿勢」、「安全の職場内啓発」、「安全配慮行動」、「モラル」を安全風土の下位要因に用いることが妥当と考察した。また、本研究を通じて、安全風土は、組織的な特性と個人的な特性の相互作用によって知覚される組織環境と考えられた。