2013 年 30 巻 p. 36-54
本論文では、地域の人々と大学の教員・学生が、対等な立場で研究活動を行った事例を報告する。従来、地域と大学の共同研究は、地域の行政が大学に研究を委託するか、あるいは、大学の研究者が研究資料を収集する場として地域の協力を求めるというケースがほとんどであった。しかし、本論文で紹介する研究のように、地域が抱える問題を発見し、解決の方途を探る研究にとっては、地域の人々と大学の研究者が対等な立場で、研究の企画・遂行に当たる必要がある。なぜならば、地域の問題に最も精通しているのは、大学の研究者ではなく、地域に住む人々だからである。
本論文で紹介するのは、鳥取県智頭町山形地区で地域の問題に取り組む住民組織(地区振興協議会)と、岡山県立大学の教員・学生が、対等な立場で取り組んだ共同研究である。共同研究の目的は、住民参加の高齢者福祉を進めるために取り組むべき課題を発見することであった。 地区振興協議会の役員と大学の教員・学生の話し合いの中で、まず、地域住民が2名の学生を「一度、智頭にどっぷりつかればいいよ」と受け入れることになった。学生は、不安ながらも、その申し出に乗った。学生が、智頭に慣れたころ、独居高齢者の自宅を訪問して、じっくり話を聞いてみようということになった。高齢者の話を聞く中から、日常生活には大きな支障を抱えてはいないが、他者との交流、とりわけ、自宅や自宅近辺での交流を求めていることがわかった。学生たちは、この調査結果を基に、高齢者が若者や地域住民と食事を共にしながら交流する「共食」プロジェクトを地区振興協議会に提案し、議論の俎上に乗せた。
本共同研究は、学生にとって、地域の人々と共に地域の課題を発見し、その解決方法を考える貴重な機会となった。それは、施設での実習が主流を占める福祉分野の実習教育に加えて、地域(型)実習を構想していく上で参考になる。また、地域住民にとって、本共同研究は学生を育てるという稀有な機会となった。それは、「地域の教育力」を高める試みだったとも言える。最後に、教員は、学生と地域住民の連結ピンとなりつつ、自らをも含む「共育の場」(共に育みあう場)をいかに創造していくかを問われる機会となった。