2025 年 3 巻 1 号 p. 113-123
2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震は,石川県,富山県,新潟県の広範囲に甚大な液状化被害をもたらした。特に,石川県河北郡内灘町及びかほく市周辺は被害が顕著であり,液状化による地盤の側方流動や,それに伴う水路閉塞等が確認され,被害状況把握や被災メカニズムの解明を目的とした現地調査1)~4)や室内試験5)が実施されている。地震発生後の災害復旧にあたっては,被害状況の迅速な把握が不可欠であるが,被害が広範囲に及ぶと状況把握が困難となる場合がある。そのため,被害状況を効率的に把握できる方法が必要である。近年,合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar, 以下SARとする)を用いて,衛星画像から地表面状態を観測できる干渉SAR解析が実用化されている。干渉SAR解析は,SARで地表の同一地点を2時期で観測し,得られた反射波を干渉させて得られる位相差を実際の距離変化に換算することで地表面変位を推定する技術である。ただし,液状化等によって地表面の散乱状態が著しく変化した場合は,地震前後の反射波を干渉させることができず,地表面変位の推定が困難になる。そのため,本論文では,地震前後の地表面の散乱状態の変化を表す指標であるコヒーレンスを用いて,地震による地盤変状範囲を推定する。既往研究では,干渉SAR解析を用いた液状化地域の把握や宅地造成地の変動検出等の試みがなされている。小林ら6)は,干渉SAR解析で得られる地震前後の地表面の散乱状態の変化(コヒーレンス変化)を利用して,2011年東北地方太平洋沖地震に伴って発生した液状化地域の把握を試みた。その結果,浦安市とその周辺で,現地調査で確認された液状化/非液状化範囲とコヒーレンス変化の分布に空間的に良い相関が認められ,干渉SAR解析の結果から液状化範囲を調査する際は,コヒーレンス画像の利用が可能であるとの結果を得ている。ただし,コヒーレンス変化から一意に液状化の発生有無を特定することは原理上不可能であるため,その限界を把握したうえで調査に活用することが重要と結論付けられている。また,宮嶋ら7)は,干渉SAR解析を用いて,2011年東北地方太平洋沖地震で発生した宅地造成地の地盤変状検出を試み,実際に地盤変状が確認された箇所が,干渉画像上において局所的な位相変化領域や非干渉領域として検出されることを示した。これらの結果からも,地震や液状化等に起因する地盤変状範囲の抽出には,干渉SAR解析のコヒーレンス変化に着目すべきであることが示唆される。本論文の目的は,令和6年能登半島地震によって甚大な液状化被害を受けた石川県河北郡内灘町及びかほく市を対象に干渉SAR解析を実施し,地震発生前後の地表面のコヒーレンス変化から,地震による地盤変状範囲を抽出することである。併せて,抽出した地盤変状範囲と実際の被害状況との整合性を確認するとともに,地形・地質等に着目し,変状要因を考察することを目的とする。