抄録
近年,有病者や超高齢者を診察する機会が増加しており,安全な歯科診療を実現するために全身管理の重要性は増してきている.患者の全身状態を管理するためには高度な知識や技術が必要と誤解されるかもしれないが,歯科治療時の全身管理において必要なのは,歯科治療を受けている患者の状態を把握し,患者の全身状態の変化や異常に気づき,対応するための基本的な知識で,それらの基本的な知識を歯科医療に携わる全スタッフが共有していることである.患者の全身状態の把握にはバイタルサイン(血圧・脈拍・呼吸・体温)や動脈血酸素飽和度(SpO2)などの生体情報が必須である.これらの生体情報をもとに患者の全身状態を把握し,異常を早期発見し対処することが安全な歯科医療につながる.また,超高齢社会では歯科治療における全身的偶発症の発生率も高くなることが予測される.歯科治療時には血管迷走神経反射や過換気症候群といった全身的偶発症が発症することがあるが,これらに対する適切な対応も安全な歯科治療を実現するうえで不可欠な要素である.
本稿では患者の全身状態の把握に必須のバイタルサインをはじめとする生体情報の正常値と正しい測定法について解説し,加えて歯科治療時に生じる代表的な全身的偶発症とその対処法について解説する.