2017 年 13 巻 2 号 p. 33-41
未成年、とくに幼い子どもを犠牲者とする性暴力は卑劣な犯罪である。性犯罪サバイバーの多くがプライバシー保護のために沈黙を選ぶ中、欧米では少女時代に誘拐され、長期(6か月以上)にわたり監禁された事件のサバイバー女性3名が、21世紀に入って相次いで実名ナラティヴを出版した。アメリカのエリザベス・スマート、ジェイシー・リー・デュガード、オーストリアのナターシャ・カンプッシュである。これらのナラティヴには、肉体的・精神的・性的暴力の被害で受けた心的外傷およびその回復過程が描写されている。本論は、逆境に対応し、困難や変化に適応する力である「レジリエンス」に注目して、これらの自筆ナラティヴの質的叙述的分析を行い、ナラティヴに描かれたトラウマとレジリエンスを精査した。その結果、レジリエンス獲得の要因として、「疑似家族」関係における主体的反抗、実の家族との絆、執筆による過去の再定義が抽出された。サバイバーの語りを支援することは加害者を断罪し、防犯への世論喚起を促すことにつながる。我々はサバイバーの語りを受容・包摂し、サバイバーの人権・尊厳を守るとともに、サバイバー救済のための体系的ナラティブ治療の確立を進める必要がある。